バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

八千代掛けから、七歳祝着へ  子どもキモノを上手に使い回す

2016.11 06

キモノや帯を、状態良く、長く使うためには、着用後のメンテナンスをきちんすることが大切である。これは改めて話すまでもなく、どなたでも、理解されていることと思う。だが一通り手入れを済ませて、箪笥の中に入れてしまうと、定期的に品物の状態を確認される方は、多くない。

 

一昔前には、ほどんどの家で、年に二回ほど箪笥から品物を取り出し、部屋の中に吊るしては、風を入れていた。いわゆる「虫干し」という仕事である。この面倒な作業をすることにより、虫からの被害を避けることはもちろん、外気に触れることで、湿気を消し、同時に品物に不具合が生じていないか、確認することが出来る。

昔カジュアル着として良く使われていた、ウールやメリンスなど「毛織物」は、虫に食われて生地に穴が開くようなことが多かったので、虫干しは必ずしておかなければならなかった。また絹モノでも、食べこぼしのようなしみをそのままにしておくと、虫に食いつかれる危険が生じる。

だが、保管しているキモノや帯にとって、一番注意しなければならないのは、湿気である。というのも、ウールならともかく、汚れの無い状態であれば、虫が絹生地を喰うことは、あまり無いからだ。機密性が高くなっている昨今の住宅では、昔よりも、湿度を気に掛ける必要があるだろう。

 

多くの人は、キモノをフォーマルの場でしか使わない。そうすると、着用の機会は限られてくる。特に結婚式や葬式に限定して使う留袖や喪服などは、次の着用までに、10年以上間隔が空くようなことは珍しくない。

この間、一度も箪笥を開かず、風を入れていないとなると、品物が心配になる。無論、特に不具合も無く、良い状態のままということも多いが、中には「大変な状態」になっていることも、ままある。

 

特に、前回の着用後に、きちんと手入れがなされていないモノでは、汚れや汗しみが、長い時間の経過と共に、さまざまな症状を引き起こす。中でも、品物の状態を悪くするのは、しみ汚れと湿気が連動することで発生する、カビや変色である。

キモノは、地色そのものが変色してしまったり、全体に黄色っぽい汚れがまき散らされたような状態になると、修復はかなり難しくなる。これは帯でも同様である。

お客様の様子を見ていると、着用後に、キモノの汚れには注意を払う方が多いが、帯に関してはあまり意識されていないように思える。それは、帯そのものに、しみ汚れが付いてしまうようなことが少ないからだろう。

だが、帯は体に巻きつけて使うモノで、当然、熱が籠って湿っぽくなる。だから着用後には、何日か吊るして風を入れ、十分に湿気を取ることが大切となる。これを怠り、湿気を含んだ状態で箪笥に入れてしまうと、カビ発生や変色のリスクが生じる。

 

かように、キモノや帯を上手に保管することは、面倒で難しい。そして、それ以前の問題として、マンションなどの集合住宅では、そもそも保管する場所を確保することが難しく、和箪笥などの「入れ物」も、持っている方が少ない。

結婚された方が、自分のキモノや帯を、全て実家に置いたままにしておき、使うたびに親から送ってもらう、などという話をよく耳にするが、これは、先述した住宅事情や、自分で手を入れる煩わしさを避けるためである。今の時代、品物の管理を「親任せ」にしてしまうことは、ある程度仕方が無いことなのかも知れない。

 

とても前置きが長くなってしまったが、今日は、お客様に「きちんと保管して頂く」ことで、効率よく使い回しが出来る「子ども小紋」について、お話してみよう。

 

(山吹色ちりめん地 手鞠と糸巻模様小紋 七歳祝着・菱一)

女の子の節目は、お宮参り・三歳・七歳・十三参りと数年おきに続いていく。やはり男の子と比べて、キモノに触れる機会が多く、親や祖父母は、「着せる楽しみ」を持つことが出来る。

だが、その時々のキモノは形式が異なり、準備するものも違ってくる。節目を迎える度に、新しい品物を用意することは、面倒でもあり、費用もかかる。そのため、昨今では貸衣装で済ませる家が増えた。多くの場合、写真スタジオで衣装を貸りて、記念写真を撮す。中には、神社へお参りに行くこともなく、写真だけ撮って終わりという家もある。

とりあえず、画像に残っていれば、後々、節目のお祝いをした証拠になるのだろうが、あまりにも形式的であり、少し寂しく感じられる。今の社会では、多くの若い親が忙しい日常を送っているので、これも致し方あるまい。

 

そんな中、「形だけでは終わりたくない」という方々もいる。それは、せっかく節目のお祝いをするのだから、きちんと衣装を選び、子どもに一番似合うモノを着せたいという気持ちを持っている方である。

呉服屋としては、そんなお客様の希望に、うまく答えて行かなければならない。だが、やみくもに、新しい品物を節目ごとに提案すれば良いというものではない。年齢を重ねるごとに、寸法を変えて、長く飽きずに使い続けることが出来る品物があれば、それに越したことはない。

キモノには、仕立てを工夫することにより、生まれたばかりの赤ちゃんから、150cm程度の身長になるまで、使い続けることの出来る品物がある。このブログではこれまでにも、子どもキモノの使い回しについてご紹介してきたが、今日は、お宮参りの掛けキモノ(八千代掛け)を、七歳の祝着に作り直したケースである。具体的に、どのように仕事がなされているのか、お話してみよう。

 

この小紋は、まず最初に、お宮参り用の掛けキモノ・八千代掛けとして、仕立てられている。生まれた子どもの健やかな成長を、氏神さまにお願いするのが、初宮参り。そこで、使われるのが、この八千代掛けである。

以前は、白生地や子どもらしい柄の小紋を、上の画像のように、職人の手で作り上げていたのだが、最近では、出来上がった状態で売られているモノをそのまま使うのが、一般的である。この既製品は、白生地や小紋ではなく、訪問着のような模様付けがしてあり、素材は絹だけではなく、化繊のものもある。

既製品であれば、求める方も売る側も品物が判りやすく、面倒が無い。最近では、呉服屋の中にさえ、「反物を使って仕立て上げる八千代掛け」のことを知らない者がいる。

 

八千代掛けに使われるかわいい小紋は、反物の総尺(長さ)は、大人モノとほとんど変わらず、3丈3尺以上あるのが普通。以前は、反巾が少し狭いモノもあったが、現在ではどれも9寸5分程度あり、これも通常の小紋の巾と変わらない。

掛けキモノには、全く「裁ち」を入れない。つまり、鋏で生地を切ることなく仕立て上げたもの。何故、このような仕立て方をするかと言えば、無論、後々の使い回しを考えた上での工夫である。なお、具体的な八千代掛けの作り方については、2014・1・14と22日の「和裁職人・中村さん 八千代掛けを作る」の稿で記してあるので、参考にされたい。

 

では、お宮参りのキモノを、どのようにして七歳祝着に作り変えるのか、手順をお話しよう。

7年ぶりに店に戻ってきた八千代掛けは、最初にスジ消し職人の加藤くんのところで、解かれ、縫い目が消される。お客様が保管されている間に、何の問題も無ければ、洗張りをする必要はなく、単純にスジを消すだけで済む。

もともと生地が裁たれていないので、他の品物のように、解いた時に生地をつなぎ合わせる「ハヌイ」の必要がない。上の画像は、スジ消しを終えたところだが、反物の時と同じ状態に戻っている。もちろん、胴裏も表地と同様である。

七歳祝着に作り替える時、新たに用意するものは、八掛け・長襦袢・刺繍半衿。

八掛の色は、お客さまと相談の上に決めなければならないが、やはり赤や朱系を使うことが多い。ただ、単に赤と言っても、微妙な違いがあるので、八掛色見本帳を使いながら、丁寧に選ぶ。この小紋に付けた八掛は、画像の通り、かなり強い紅色。近藤染工さんに見本帳を送り、別染したものである。

襦袢は、やはり一番子どもらしく、かわいい「疋田模様」を使う。刺繍衿は、白に小さな花の丸模様。子ども用の衿にも、白・薄ピンク・クリーム・薄水色と様々な地の色があり、模様の嵩も違う。加藤萬が作る子どもの刺繍衿は、大人モノと同様に質が良い。

 

反物の状態に戻り、裏地と襦袢が揃ったところで、仕立に移る。

まずは、着用するお子さんの寸法取りをする。きちんと測らなければならないところは、身丈と裄。七歳くらいの子どもでも、体格に個人差がある。身丈の寸法は、だいたい2尺3寸~6寸(87cm~98cm)の範囲に納まる。それでも小さい子と大きい子では、3寸(10cm)もの違いがある。

我々の経験則として、子どもの裄の寸法は、身丈の半分(身丈が2尺4寸ならば、裄は1尺2寸)と考えておけば良かったのだが、最近は大人と同様に、手の長い子どもが多い。だから、きちんと測って、実際の寸法を確認する必要がある。

この祝着を着用する子も、背が高く、身丈は2尺6寸。裄は、身丈の半分より5分長い、1尺3寸5分であった。また、袖丈は、身長に応じて少し寸法を調節する。長さは、1尺7寸~9寸の範囲だが、大きい子ほど袖丈が長くなる。このキモノの袖丈も、1尺9寸と長めになっている。

祝着の仕立は、肩と腰に揚げを付けておく。揚げは、生地をつまんで縫ってあるため、ギャザーのようにも見える。上の画像でも、衿の左側の肩のあたりにスジがあるが、ここが揚げをしたところ。

子どもは、どんどん成長していくので、そのたびに寸法も変っていく。揚げがあれば、体格に合わせて、寸法を簡単に調節することが出来る。揚げには、「大きくなるように」という願いも込められているため、子どものキモノには、欠かすことが出来ない「ほどこし」になっている。

 

鮮やかな紅色の八掛。キモノの糸巻や手鞠、梅花に使われている「赤」と同じ色。

襦袢と刺繍衿を重ねた襟元。刺繍衿は、さりげない模様を使っても、子どもらしい可愛さが増し、着姿のアクセントになる。

 

このキモノは、揚げを下していくことで、身丈は4尺、裄は1尺6寸5分程度まで、大きく出来る。これは、身長150cm程の女性が使う大きさで、昔の並寸法と同じである。だから、6年後の十三参りには、十分使うことが出来、そのときには、肩揚げと腰揚げを外して、大人のキモノと同じような形にして、着用する。

七歳の祝いは、「帯解の儀」にあたる。本格的に帯を結べるようになった年齢に達したという、大人の入り口に立ったことを祝う儀礼。最後に、その帯解きにふさわしい、上品でかわいい帯を合わせた画像をご覧頂こう。

(白地色 梅花散し文様 唐織祝帯 西陣・奥田織物)

キモノの色が、少し強い色なので、優しい雰囲気を持つ、上品で上質な帯をおすすめした。この帯は、祝着用としてだけではなく、将来大人用の名古屋帯としても、使うことが出来る。白地でくせのない模様だけに、どんな地色の小紋でも、合わせやすいように思う。

 

一枚のキモノを、成長するたびに手を入れて、使い続ける。おそらく両親や祖父母は、手直しをするたびに、子どもが成長したことを実感するのではないだろうか。

お客様が、「長く使う」と決めている品物は、やはり大切に扱われている。それは、きちんと保管することにも、繋がっている。子どものキモノに限らず、箪笥の中に仕舞われている品物は、いつの日にか再び着用することがある。そう考えれば、年に1、2回くらいの虫干しや、状態の確認は、苦にならないのではないだろうか。

「言うは易く、行うは難しい」かも知れないが、ぜひ皆様も、たまには箪笥を開いて、キモノや帯を見て頂きたいように思う。

 

不思議なもので、30年近く一度も外に出すことなく「仕舞ったまま」でも、良い状態を保っているモノがある一方、わずか5、6年の間に、大変な状態となってしまうものがあります。

この原因は、保管場所の環境にも拠るでしょうし、着用した後の「手の入れ方」にも関わっているでしょう。「何もしないのに、きれいなままだった」というのは、本当は、運が良かっただけなのかも知れません。

箪笥から一枚ずつ品物を出すことは、大変手が掛かります。なので、せめて引き出しを開けて、風を入れ替えてみてはいかがでしょうか。それだけでも違うように思います。そして、その時、箪笥の中にあるキモノや帯を使う日に、思いを馳せて頂ければ嬉しいですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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