バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

少し贅沢な浴衣を作ってみる(2)  さらりさらりと、綿紅梅

2016.08 07

このブログを書き始めて四年も経つのに、全く文章が上達しない。時折、昔書いた記事を読み直すことがあるが、意味不明なところもかなりある。呉服に関わることは、特殊な用語が多い。それをそのまま、説明もなしに書いてしまっているため、読み手が理解し難くなっている。

読まれる方が、どなたでもわかるような、噛み砕いた文章になっていなければ、長々と書いても意味は無い。努力はしているが、自分の筆力の限界を感じてしまう。

 

そんなバイク呉服屋だが、私には、モノの書き方を教えてくれた人がいる。その人は、毎週日曜日の朝9時、TVの中に現れる。NHKの番組・「日曜討論」で司会を務めているS解説委員。彼こそが、私の師匠である。

Sさんは、同じ高校で一学年上。私が籍を置いていた「新聞部」の先輩。家が近く、子どもの頃から知っていたため、入学した翌日、部へ勧誘された。私も、文章を書くことは嫌いではなかったので、そのまま部員になった。

 

高校新聞といえども、かなり濃密な内容で、学校で起こる様々なことを記事にして、生徒や学校側へ問題提起をすることが目的だった。つまりは、「オピニオン・リーダー」としての役割である。旧制中学からの伝統があり、バンカラで自由な校風。自主、自立、自治を念頭において、新聞が発行されていた。

60年安保や、70年安保の頃には、政治的な問題に踏み込んだ記事も多く、今から思えば、かなり社会を意識した大人の新聞であった。そんな訳で、Sさんからは、入部早々に「朝日ジャーナル」を読むように指示された。彼は、自分の考えが偏らないようにと、合わせて「諸君」も購読していた。

文章に対しては厳しく、一つのコラム記事だけでも、50回以上もの書き直しを命じられた。よく、家に連れて行かれて、徹夜で指導されたのを思い出す。とにかく、読者が記事を読んだ後に、考えさせる内容にすることを求められた。自分があからさまに主張するのではなく、あくまで問題提起をすること。これが大切だった。よく、「余韻の残る文章にしろ」と言われたのを思い出す。

 

TVで、政治・外交・安全保障に精通するSさんの姿を見るにつけ、大変な人に指導を受けていたと、感慨深くなる。努力だけでは、知力や筆力の差が埋まるべくもなく、それはそのまま、NHK解説委員とバイク呉服屋という、現在の仕事の違いに表れている。

個人的な昔話の前置きが長くなってしまったが、今日は前回の続きで、少し贅沢な浴衣について話を進めてみよう。品物を、わかりやすく「解説」出来れば良いが。

 

(綿紅梅小紋 菊尽し・新粋染)

綿紅梅の生地面は、絹紅梅同様、ワッフルのような格子の凹凸が表れる。絹紅梅の場合は、絹と綿という異なる材質の糸を、経糸と緯糸に組み合わせて織ることで、生地に畝を作り、勾配差を出しているが、綿紅梅は、同じ綿材質でも、太さの異なる糸を組み合わせることにより、生地の段差を形作っている。

綿紅梅の風合いは、使われている二種類の綿糸が、どのような太さになっているかで、変わってくる。糸の太さの基準は「番手」と呼ばれるものだが、番号が上がれば上がるほど、糸は細くなる。(例えば、20番手よりも50番手の方が細い)

番手の差が大きい綿糸同士を使うと、それだけ畝の高低さは広がることになり、表面の凹凸差も大きくなる。つまり「ぼこぼことした」感触が、より感じられる。今年仕入れた綿紅梅でも、竺仙のものと新粋染のものでは、この表面の生地感が違う。新粋染の方が、生地に高低差があることから、番手差の大きい糸を使っていると、考えられる。

 

「菊尽し」と呼ぶのにふさわしい、菊の花びらだけをモチーフにした総模様。花は、写実的なもの、光琳菊のように略されたもの、かなり図案化されたものなど形や大きさは様々。さらに花の中に、青海波や七宝などの文様が組み込まれているため、連続模様でも画一的にはならず、変化に富んでいる。

地色は、白に近い薄グレーで、中の配色は鼠色を基調としている。青海波菊の花芯に使われている小菊だけに、僅かな海老茶色が使われている。それが、模様のアクセントになっている。

花を拡大してみた。多彩な花姿であることがわかる。白抜きされている菊と、鼠色に配色されている菊、さらに海老茶の菊。模様の中の色のバランスも良い。

格子状の畝が見える紅梅生地。一つ一つの菊模様を見ると、それぞれに微妙な違いが見られる。人の手で型紙が彫られているので、自然なブレや擦れが生まれる。これが、プリントモノでは決して見られない、品物の味わいとなる。型紙の出来映えが、そのまま模様の姿となって表れるからこそ、職人達には高い技術が要求されるのだ。

 

小紋や浴衣にとっては、最も大切な型紙。前回は、児玉博氏に代表される「縞彫」についてお話したが、他にも様々な技法が使われて、多彩な模様が描き出されている。少し、そのことにも触れておこう。

柿渋紙の上で、模様に応じて使い分けされる小刀。最も古いモノが「錐(きり)彫り」という技法である。この刃先は半円形になっていて、これをくるりと一回転させ、円形の穴を開ける。この時、右手に小刀の刃、左手に柄を持ち、刃先を地の紙に垂直に立てる。穴を開けるというよりも、針で点を突くような感じで、彫り進められていく。

上の画像で見ると、大きい菊の花芯として、点々と小さい丸が描かれているが、この部分が錐彫りによるもの。江戸小紋で、「通し」や「行儀」の模様には、この技法が使われている。

「通し」柄小紋の中には、3cm四方に千個近い穴が開けられた精緻なものもある。穴の大きさが不揃いだったり、場所が少しでもずれているだけで、型紙としての価値が無くなってしまう。一瞬の気の緩みが、命取りになってしまい、常に緊張感を持ちながら仕事をしなければならない。

 

刃先に、予めモノの形をデザインした小刀を使うのが、「道具彫」。菊やサクラ、麻の葉など、その模様は200種類以上もある。様々な形をした刀を駆使することで、多彩な模様が生まれる。

もう一つ、立体感に富む模様を曲線で表現する時に使う、「突き彫り」という技法がある。これは、刃先が1~2mmという鋭利な小刀を、型紙の上に付きたてて、上下に動かしながら、押すようにして彫る。上の菊模様でも、大きな花の輪郭などの曲線部は、突き彫りで表現されたものだろう。

いずれの技法にしろ、簡単に身に付けられるものではなく、どの職人も「型彫りの仕事は、死ぬまで修行が必要」と言う。素晴らしい型紙は、彫った職人が亡くなった後まで、永遠と使い続けられ、魂は模様の中に生き続ける。

だから小紋や浴衣のメーカーでは、何が起こっても、まず「型紙」を守らなければならない。地震や火事の時など、真っ先に持ち出さなくてはならず、建物やお金を失うことより、型紙を失う方が大きな損失になる。それほど、大切なものなのだ。

 

(綿紅梅 鷗に帆掛船・竺仙)

こちらは、竺仙の綿紅梅。コバルトブルーの地色で海を表現し、そこに群れ飛ぶ鷗と帆船(帆だけを描く)が配されている。最初の菊尽しとは、全く雰囲気が違う。こちらはかなり斬新で、夏をはっきり意識した意匠になっている。

はっきりした地色だと、紅梅生地の格子の透け感がよくわかる。絹紅梅ほどのふんわりなびく感じはないが、勾配生地の、さらりとした肌離れの良さは格別。もちろん通気性も良い。これを身に付けると、コーマや紬地浴衣の着心地が、暑く感じられてしまう。

 

せっかくなので、仕立て上がった「菊尽し綿紅梅」と、そのコーディネートした姿を少しだけご覧頂こう。

菊尽し綿紅梅を仕上げたところ。画像だけではとても浴衣とは思えず、上質な小紋に見える。菊の花という単純なモチーフでも、ここまで洒落た姿を演出することが出来る。キモノの形になってみると、改めて型紙の力を感じさせてくれる。

(博多八寸帯 縞と小市松・原田織物)

アクセントとして付いている、花芯の茶色に合わせて、帯を選んでみた。浴衣の模様が密なので、帯は出来るだけ単純なものにして、着姿を引き締めてみる。地色は赤茶色と黄土色のツートン、織柄も縞と小さい市松。同じ博多帯でも、オーソドックスな献上縞だと、これほどすっきりといかないような気がする。

(絽帯揚 白に薄クリーム色飛び絞り・加藤萬  夏帯〆 女郎花色・龍工房)

小物は、帯の中の黄土色を意識して考えてみた。帯揚げは、白地の平絽にクリーム色が付いた小さな絞り模様のもの。帯〆は、黄土色よりやや薄い女郎花の色。

 

絹紅梅が、「ひらりひらり」と軽い浴衣ならば、綿紅梅は、「さらさらとしていて」肌に優しい浴衣。どちらも、着る人に贅沢な着心地をもたらしてくれる。この、菊尽し綿紅梅を求めた埼玉のお客様は、熊谷のうちわ祭りの日に、着用されたはず。これまた、その着姿は目だっていたと思われる。

次回は、「浴衣の中の浴衣」とも言うべき、「小紋中型」をご紹介してみたい。

 

高校の新聞部時代、読むように命じられていた「朝日ジャーナル」を開くことはなく、代わりに「アサヒ芸能」ばかり読んでいたバイク呉服屋の筆力は、当然上がることがありませんでした。

先日、突然S解説委員から食事に誘って頂き、高校以来、三十数年ぶりにゆっくりお話を伺うことが出来ました。判ったことは、我々が報道を通して知ることなど、ほんの数%の事実に過ぎないということ。政治の世界は、決して表には出て来ないような裏側に、真実があるようです。

こんなつたないブログでも、書き続けることが出来るのは、若い頃文章を鍛えて頂いたお陰ですね。先輩には、大いに感謝しなければいけません。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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