バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

7月のコーディネート  キリリと清々しい、白地の濃淡合わせ

2016.07 24

皇后・美智子さまのお召物の地色は、いつも上品で控えめ。薄い銀鼠色、生成色、薄ベージュ、ごく薄い灰桜色などをよく使われている。いずれにせよ、柔らかい色をまとわられることで、より気品のある姿として映って見える。

天皇陛下の傍らで、一歩引いた感じで寄り添っておられる美智子さま。キモノ姿の時は、その地色も相まって、節度をわきまえたような、控えめな印象が強い。

 

先頃、退位されるご意向があると報道された天皇陛下だが、納得できるような公務を務めることが難しくなってきたと、ご自分で判断されたのではないだろうか。年齢を考えれば、一般の人では考えられないほどの、激務である。

現陛下は、激動の時代に在位された昭和天皇の後を受け、その意思を立派に受け継がれた、実に尊敬すべき方だと思う。昨年来赴かれた、パラオ・ぺリリュー島やフィリピンを始めとする、太平洋戦争の激戦地への慰霊の旅には、先の戦争に対する陛下の思いというものが伺える。もしかすると、日本国民の中でもっとも「平和」に対する意識が強い方ではないだろうか。

憲法改正で戦争を意識させ、力対力のパワーゲームで対外勢力と対抗しようとするような今の政権は、そんな陛下の思いをどれくらい忖度しているのか、はなはだ疑問に感じる。「象徴天皇」と言えども、その行動を見れば、何を一番大切にしているか、誰でもわかるはずである。

 

そんな天皇陛下を、影から支え続けておられる美智子さま。初めて民間から皇室に嫁がれたそのご苦労は、並大抵のものではなかったはずだ。ご成婚された1959(昭和34)年から数えて、今年で57年。その間ずっと、陛下とともに国民に寄り添う気持ちを、いつも持ち続けておられるように思う。

「世紀の結婚」と呼ばれたご成婚の頃(昭和33~35年)には、美智子さまの愛称にちなんだ、「ミッチーブーム」が巻き起こった。特に、身につけられたファッションは注目の的となり、社会現象にもなった。

中でも清楚な「白い服装」は、誰の目にも清々しく映り、大流行することになる。キモノの地色も例外ではなく、納采の儀(結納)でお召しになっていた「白地の御所解文様の振袖」を見た人々は、思わずその美しさに引き込まれてしまった。

その当時、誰もがその姿に憧れ、白い地色のキモノも大流行する。今でも、たまにその頃の振袖や訪問着の手直しを依頼されることがあるが、多くが白地のものである。いかに、白という色がもてはやされたかが、わかる。白地のブームは、昭和40年代前半くらいまで続いたが、その後は地色が付いたものが、主流になっていく。

 

今月の初め、東京在住のあるお客様から、絽の訪問着の依頼をお受けした。求められた品物は、今では珍しくなった白地で、しかも御所解文様。その清楚な夏姿には、白という色だけが持つ独特の美しさがある。

そこで、今月のコーディネートでは、この品物を皆様にご紹介して、その清々しい姿を、改めて感じ取って頂くことにしよう。

 

(白地 御所解模様・絽訪問着  生成色地 正倉院宝相華文様・紗唐織袋帯)

白という色を具体的な事象の中で考える時、どんなものを想像されるだろうか。それは、雪の白さだったり、雲の白さだったり、あるいは真珠の白さや、絹糸の白さだったりするだろう。

では、この白さはほとんど同じなのかと問われると、違うように思える。もちろん雪や雲は、いつでも同じ白さであるはずはなく、その時の気象条件により、灰色っぽくなっていたり、青みがあったりする。真珠や絹糸も、白の中に僅かなグレーやベージュの色を感じることが多い。

 

バイク呉服屋が思い起こす白色は、胡粉(ごふん)の白。友禅の模様の中で、白を表現するときに使われる顔料である。素材は、牡蠣や帆立などの貝殻を砕いたもので、その主成分・炭酸カルシウムの白い色を生かしたもの。最近では、貝殻を使う天然剤は少なく、化学剤・酸化チタニウムを用いることが多いが、この胡粉の白とて、均一ではない。

要するに、我々が「白」と感じる色を厳密に言えば、千差万別であり、微妙な違いがある。何を持って「白」とするのか特定することは、なかなか難しい。

 

(白地 御所解文様・京友禅絽訪問着  松寿苑)

キモノや装束の地色として、白という色は特別なものである。平安期以来、慶事や凶事に際して用いられるものは白装束であり、神官や僧侶など神仏に仕える者の衣装の色も、白に特定される。そして、白が持つ清潔で純粋なイメージは、花嫁衣裳の打掛の下に使う白無垢の振袖に、代表されている。

白はまた、涼やかな夏を想起させる色としても、古くから使われている。武家の夏装束として代表的な「白帷子(しろかたびら)」は、素材に麻や生絹(すずし)を用いたもの。平安末期の説話集・今昔物語集の一節(巻28第37)には、「紺の水平に白き帷子を着て・・・」との記述も見えることから、すでに平安びとの間でも、着用されていたことがわかる。

 

模様の中心となる上前おくみと身頃を写したところ。最初の画像では、畳の色が絽の目に透けて見えてしまい、白さをあまり感じなかったが、こちらの方が地の白の色がわかりやすい。

以前にも、ブログの中で御所解(ごしょどき)模様の品物をご紹介したことがあったが、この文様には定まった形式がない。御殿の建物や楼を描き、庭には四季の花や樹木を配する。また模様の間には流水や霞を付け、そこに御所車や烏帽子、折戸などの小道具を使う。

御所解は、江戸中期以降の、上流武家女性達が着用した小袖の模様が始まり。当時そのあしらい方は様々で、刺繍や疋田を多用したものや、友禅染の白上げや色挿しの技法を取り入れたものが見られる。

この模様は、ある風景を切り取ったものであるため、絵画的である。そのため遠近感を出す手法が見られたり、一つ一つのモチーフを写実的に描いているという特徴がある。

 

庭園の中に設えられた舞台。御簾や置かれた琵琶などの小道具も写実的に描かれている。菊や松、楓などは御所解に使われる植物として定番のもの。夏の薄物らしく、どの挿し色も柔らかな淡色が使われている。全体的におとなしい印象が残る。

舞台の模様を拡大してみた。御簾や几帳などに細かく糸目が引かれ、丁寧に描かれていることがわかる。菊の輪郭には、駒繍が使われている。模様に浸透した絽の目が何とも涼やかに見える。 

こちらは後身頃。夏らしく波文様の間に浮かぶ小舟の姿も見える。その先には折戸があり、水辺の風景と庭の風景が混在している。御所解文様の捉えどころの無さは、こんなところにあるのだろう。

 

一つ一つの模様は細かい上におとなしく、こじんまりとした印象。この品物を求められたのは小柄な方なので、この小さな模様付けが生きてくる。模様の大きさや挿し色の雰囲気によっては、体型的に向く人と向かない人が出てくる。

水や松の色はあくまで淡く、白という地色を生かしながら挿している。すっきりと清々しく、夏のフォーマルらしい着姿に見えるような工夫が随所に見られる。

では、この清楚な訪問着を生かすためにはどんな帯を合わせれば良いか、考えよう。

 

(生成色地 正倉院宝相華文様・紗唐織袋帯  錦工芸)

糸の自然な色をそのまま生かしたような生成の紗地に、地と同系糸と白だけを使って、模様を浮かせた唐織帯。唐織は、経糸に生糸を使い、これに地緯糸を三枚綾組織に織り込み、その間に色の絵緯糸を浮かして模様を表現しているもの。

絵緯は、模様に応じて色糸を縫い取るように織り込んでいくので、使う杼(緯糸を通す道具)は、色数の分だけ必要になる。杼を模様に合わせながら、一本ずつ経糸にくぐらせ、地緯に通して織り進めていく。

唐織の裏から見ると、絵緯糸は帯の幅いっぱいに通しているのではなく、模様の部分にだけ、二本の地緯糸を間において往復させていることがわかる。そうすることで、模様には、撚りの掛かっていない絵緯糸が浮き上がり、まるで刺繍をほどこしたような帯姿となる。

 

天平期のシンボル文様とも言うべき、宝相華(ほっそうげ)。正倉院に収蔵されている宝物品のほとんどに、この宝飾のようなデザインが使われている。この文様を構成している花は、「唐花」と呼ばれている空想的な花だが、その基礎となっているモチーフは、牡丹や蓮、忍冬(スイカズラ)、葡萄などである。

この花の図案を見ていくと、中心に花弁を置き、そこから左右対称に蔓や葉が伸び、そこで新たに花を咲かせて、さらに模様を繋いでいく。宝相華は、元来仏教的な意味を持つ花文であり、模様の繋がりは命の繋がりや、人の繋がりをも想起させる。

 

模様の中の糸の配色は、生成と白の二色だけ。花弁には白を、周囲を取り巻く蔓には生成色を使う。シンプルな色使いだが、唐花の存在感は十分表現されている。立体的に見える唐織だからこそ、こんな色の使い方が出来るように思える。

では、どちらも白を基調とするキモノと帯を組み合わせると、どのような姿になるのか。ご覧頂こう。

 

白地のキモノは、他の地色と異なり、合わせる帯の影響を大きく受けやすい。インパクトの強い色や大胆な模様使いのものなら、帯のイメージがそのまま着姿に表れてしまうだろう。かといって、薄地で控えめな帯を持っていくと、全体がぼやけてしまい、印象が薄れる。

キモノ地色と同色の濃淡合わせだと、上品でさりげない姿を作ることが出来るが、ただ白地に限っては、帯がキモノに埋没する怖れがある。しかもこの帯で表現されている模様の配色は、白と生成の二色だけである。

けれども、こうして合わせてみると、思うより濃淡の差が出ている。その上白と生成色だと、他の色の濃淡合わせにはないような、清楚さがある。しかも薄物だけに、その涼やかさは特別。控えめな御所解のキモノの雰囲気を壊すことなく、同系色の帯ながら、帯の主張も見られる。

前の帯合わせ。宝相華模様が、キモノから浮き立つように見える。唐織独特の立体感が、十分に生かされている。これが違う織り方ならば、全く違う感じに映るだろう。そして、帯模様に余計な色を使っていないことが、かえってこのキモノを引き立たせているように思える。

 

(水色ぼかし・絽帯揚げ 加藤萬 水色と生成色に金通し・細丸ぐけ帯〆 翠嵐工房)

小物の色使いも、キモノと帯の色に近いものを選んだ。帯〆の水色が、わずかなアクセントになる。あくまでも上品で爽やかな着姿にするならば、最後の小物までそのスタンスを崩さない。こんなコーディネートでは、個性的な色の帯〆を使っただけで、すべてが壊れてしまうだろう。白という色は、他の色に影響されやすい繊細な色だけに、合わせる小物の色にも細かな配慮が必要だ。

 

最近では少なくなった白地のキモノ、それも絽の訪問着だけに、白の持つ「清々しさ」や「涼やかさ」を前面に出してコーディネートしてみた。

帯も同色系で合わせてみたが、やはり模様が浮き上がる「唐織」を使ったことが、ポイントだったように思える。フォーマルモノの模様としては、御所解と宝相華という、どちらもスタンダードな模様を使いながらも、堅苦しくなりすぎず、キリリとした着姿を表現できたように思う。

今日の品物は改めて、白という地色の力を感じさせてくれた。やはり夏のお召し物では、白に勝る色は無いということなのかもしれない。最後に、キモノと帯の姿をもう一度どうぞ。

 

白地のキモノが少なくなったのは、どうしてなのでしょうか。汚れが目立ちやすいとか、あまりにも色の主張がないため、印象に残らないなどの理由で、敬遠されてきたのかも知れません。

けれども、白という色ほど上品な色はないでしょう。そして、白を装った夏姿の美しさは、特別かと思います。美智子さまが皇室に入られて半世紀以上たちますが、ミッチーブームとして流行した「白い衣装」が、もう一度見直されても良い気がします。

 

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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