バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

6月のコーディネート 江戸の涼風・竺仙の夏姿(2) 綿紬編

2016.06 12

数日前、久しぶりに箪笥整理の仕事をしてきた。このお客様の家とは、私の祖父の代から、半世紀にも及ぶお付き合いを頂いてきた。先月初めに、ここの奥さんが亡くなられ、49日までには形見分けをしたいという、娘さん達の依頼を受けてのことである。

この家のご主人は、社会的に立場のある方だったので、祝いの席や、葬儀に出向くことが多かった。そして、20年ほど前にご主人が亡くなった後は、奥さんが家の名代を務めてきた。

 

フォーマルの席はキモノ、と決めておられた方なので、上質な品物を沢山持っている。以前、このブログでもご紹介した、「毎田仁郎・加賀友禅黒留袖」は、この方からお借りしたもの。また、ご主人が健在な頃は、何回も仲人を引き受けていたために、今となっては珍しい「絽の黒留袖」まで持っている。この品物も、当時の北秀商事が製作した素晴らしい江戸友禅である。

その上、謡曲や書道を嗜んでいた方なので、無地モノや小紋なども数多くあり、もちろんそのキモノに合わせる帯も、かなりの数になっている。旬を意識した模様の品物が多く、一点一点に特徴がある。もちろん、きちんと職人の手が入ったものだ。改めて残された品々を見ると、今となっては手に入り難いようなものばかりである。

 

実は5年前に一度、私はこの家の箪笥整理を請け負っている。奥さんは、自分が元気なうちに「不要品」を片付けてしまおうと考えたのだ。その時に、「将来残されても、誰も手を付けない」と思われるものを、徹底的に処分した。

そして、残そうと決めた品物は、そこで一度手を入れて、汚れやしみを直した。だから今回、箪笥の中の品物の状態は万全であり、いつでも使えるようになっていた。

 

品物を受け継ぐ人には、整理の時に手を煩わせないようにする。それは、自分の思い入れのある品物を、後々まで大切に使って欲しい、という気持ちの表れでもある。私も、5年前のことを娘さん方にお話しながら、残された品物について説明させて頂いた。

価値のあるキモノや帯は、代を繋いで受け継ぐことが理想であるが、「どんな残し方をしたか」と言うことが、品物を繋ぐ重要な要素になると、改めて感じた出来事だった。

 

さて今日も、竺仙浴衣・コーディネートの続きとして、綿紬素材の品物をご覧頂こう。

(藍地綿紬・万寿菊模様  白地浅葱色・博多献上縞半巾帯)

もはや、竺仙・江戸浴衣の代名詞にもなっている「万寿菊」。3年ぶりに綿紬生地が復活した。このブログでも、毎年この柄をご紹介しているが、一昨年と昨年は、綿絽や綿コーマ地を使ったものだったので、綿紬地は初めてである。

様々な生地が使われてきた万寿菊だが、もっとも粋な雰囲気を醸し出すのは、この綿紬地だと思う。それは、生地に織り込まれている、ネップ糸の自然な織節のためであろう。また、色挿しをせずに白抜きであることが、より模様を引き立てている。

10年ほど前にポスターに採用された、綿紬地に万寿菊。

粋筋の妙齢な方が、モデルになっている。バイク呉服屋は、この姿をみるたびに、思い出す絵がある。明治期の洋画家・黒田清輝の代表的な作品、「湖畔」である。

この絵は、薄水色の浴衣を着て、手に団扇を持ちながら、湖畔(箱根の芦ノ湖)に佇む女性を描いている。モデルとなっているのは、後に黒田の妻となる照子である。彼女が花柳界の出身(芸者)なので、絵の中の姿も、どことなく小粋に見える。

黒田はフランス印象画の影響を受け、当時の洋画界に新風を巻き起こしていた。この作品が描かれたのは、1897(明治30)年。黒田が、白馬会という新しい画風の団体を設立し、東京美術学校・西洋画科の教授に就任した頃である。

唐傘を開いたようにも見える菊。この模様には、「傘菊」という別名がある。これを、隙間なく連続させていることが、この浴衣の独特な風情を生み出している。

江戸の粋姿を前面に出すのであれば、もっともオーソドックスな博多半巾帯、それも伝統的な献上縞で、ということになろう。帯の配色も、白地に浅葱色の濃淡模様でおとなしく。浮き立つような万寿菊柄を、そっと引き締められるように合わせてみた。

 

(藍地綿紬・松葉蜻蛉  白地薄橙色・博多三弦献上縞名古屋帯)

万寿菊が、菊にも傘にも見えるものだとしたら、この浴衣の模様は、松の葉にも蜻蛉にも見えるもの。松の実は蜻蛉の頭、葉は羽であろう。模様はほとんど白抜きだが、中心にはほのかな薄橙色が付けられている。

二つのモチーフを複合させて一つの図案とし、見る人にどちらの模様をも感じ取らせる。しかも、それが実に粋に作ってある。万寿菊や松葉蜻蛉のような浴衣は、竺仙というメーカーの優れたデザイン力を、もっとも感じられる品物であろう。

松蜻蛉を拡大してみた。松の枝に見立てた蜻蛉の尻尾が、模様を繋げている。地の空いた部分が多いので、縦に入っている紬の織節がよく判り、それが模様の自然なアクセントになっている。

この浴衣も、ポピュラーな博多献上帯を使う。蜻蛉の頭にみえる薄橙色と、献上縞の色をリンクさせる。若い方にも向くように、縞の巾が広い三弦名古屋帯を合わせてみた。

 

(藍地綿紬・千鳥に流水  白地薄水色・博多横縞半巾帯)

この、流水と千鳥模様ほど、様々に意匠化されたモチーフは無いだろう。私が知る限りでも、7,8種類の浴衣図案がある。ただ、この品物のように、縦に流水が伸びているものは珍しい。

配色は、流れと飛沫の中の水色だけなので、やはり涼やかに見える。そしてこの模様には、やはり藍地色がふさわしい。

模様の位置が、偏って付けてあるために、少し仕立の工夫が必要になる。縦に伸びている波図案を、衿に付けるか、おくみに持っていくか、悩むところ。

帯は、浴衣と同じ配色ですっきりまとめて、清涼感を出す。実際、藍・水色・白以外の色使いの帯は、考え難い。模様も、横縞でシンプルに。

 

(鼠地綿紬・松模様  白地臙脂色・博多三弦献上縞名古屋帯)

松模様だけの浴衣図案というのは、あまりお目にかからない。けれども、これは何とも江戸っぽい浴衣である。松そのものが図案化されているのと同時に、中に配されている臙脂の赤が効いている。輪郭だけを模っているために、遊び心のある模様になっている。

臙脂色の松に合わせて、臙脂色の献上縞を使う。浴衣の配色の中の、ポイントとなっている色を、帯の色として使うことは、もっともオーソドックスなコーディネートの方法であろう。これなら、若い方でも粋な姿に映る。

 

(鼠地綿紬・葡萄模様  黄梔子色地・首里道屯綿半巾帯)

今日は、どちらかといえば、粋な感じのする浴衣ばかりご紹介してきたが、最後に雰囲気の違うものを、一点ご覧頂こう。この浴衣は、葡萄をモチーフにしているが、何より配色のモダンさに惹きつけられる。

葉と蔓と実、葡萄の要素を全て含めた総模様。グレーの紬地色が、少しだけ模様に落ち着きを持たせている。大胆で明るい品物だけに、人の目に止まりやすい。浴衣だからこその、意匠であろう。

浴衣の配色でポイントになっているのは、葉の濃緑色と実の黄色。沖縄らしい、鮮やかな黄色地の首里半巾帯で、着姿を引き締めてみた。目立つ色の帯を使い、さらに浴衣を目立たせる。個性的な夏姿を、存分に楽しめる組み合わせ。

 

藍・グレーと、二色の綿紬を使った品物を見て頂いた。浴衣は、同じ図案の型紙を使っても、生地の質が変われば雰囲気が違ってくる。竺仙では、生地を変え、配色を変えながら、モノ作りをしている。それにより、小粋な模様がモダンになったり、年配向きの図案が若い人にも好まれる模様になったりする。

一枚の型紙を様々に工夫しながら、毎年新しい品物を作る。これも伝統の力と言えよう。次回は、綿コーマ地と玉虫浴衣を使って、コーディネートを考えてみたい。

 

竺仙のHPの中に、年毎の浴衣人気ランキング・ベスト10が掲載されています。見ることが出来るのは、2006年からのもの。

万寿菊模様は、2007年の第1位(綿絽白地・褐色染め抜き)・2010年の第5位(白コーマ地・グレーと黒のグラディーション)・2013年の第1位(綿紬藍地・白抜き=今日、ご紹介した品と同じもの)・2015年の第1位(綿絽褐色地・白抜き)と、10年間に4度もランクインしています。

これを見ても、いかにこの模様が、お客様に受け入れられているかが、わかります。うちでも、10年にわたってこの品物を扱い続けていますが、全く飽きがきません。これこそ、スタンダードな浴衣と言えますね。

 

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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