バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

呉服屋の道具・13 浴衣・柄見本帳(竺仙)

2016.04 08

東京方面から中央線に乗り、笹子トンネルを抜け、勝沼にさしかかると、車窓の左側に甲府盆地が見えてくる。線路が山際に敷かれているので、町全体を見渡すことができる。

2、3日前には、桃の花が満開となり、扇状地がピンクに染まっている。少し残った遅咲きの桜の色と、スモモの白い花の色とが混ざり合う。一年のうちで盆地がもっとも美しい季節である。

甲府の街から周囲を見渡すと、東には大菩薩、西は南アルプス、南は御坂山地と富士山、北は秩父山地から茅ヶ岳や八ヶ岳と、360度山に囲まれている。峰々を源流とする川が土砂を運び、堆積して扇状地を作る。ぶどうは、山の斜面が利用され、水はけのよい平地には、桃やスモモ、さくらんぼ畑が広がっている。この土壌と、夏冬の寒暖の差、さらに清らかな空気と水が、果樹王国・山梨の源である。

 

ようやく寒さを越えて、穏やかな春の日差しが感じられる毎日だが、呉服屋では、そろそろ夏の準備にかかる季節。品物に関しては、メーカーの夏物発表会が、正月開けから始まっているので、これまでに、ほとんどの手当ては済んでいる。

だが、買い入れた品物はまだ手元に届いておらず、メーカーや問屋に置いたままになっている。送られてくるのは、今月下旬から、連休明けにかけて。品物を選んだのが、数ヶ月前のことなので、求めた柄を忘れていることがある。

呉服屋の仕入れは、計算づくではなく、感覚的なモノ選びをしているので、気分次第で買い入れる品物が変わってくる。だから、選んだ時から日を置いてしまうと、今になって、「あの時どうしてこんなモノを選んだのか」というようなことがよく起きる。考えてみれば、真にアバウトな仕事である。

 

あらかた仕入れは終わっているが、いつも最後に残るのが浴衣。竺仙の社員は、毎年3月の中旬あたりにならないと、店にやって来ないので、どうしても遅くなる。この会社も、少ない人数で仕事を切り回しているので、仕方がない。

品物の見分けは、少し前に書いた千切屋治兵衛の四つ身小紋と同じように、現品ではなく見本帳から選ぶ方式である。今日は、品物を選ぶ様子を御紹介しながら、浴衣見本とはどのようなものか、見て頂こう。

 

(竺仙・浴衣柄見本帳)

浴衣見本は、小紋見本とは比べものにならないくらい、数は多い。何せ、創業130年を越える竺仙の看板商品だけに、素材となる綿の種類も多く、染め方も様々である。

浴衣は型紙が命なので、破れたり痛んだりして使いものにならない限り、同じ柄を作ることが出来る。但し毎年竺仙が、手持ちの型紙を全て使うことはない。柄には、売れ筋のものと、そうでないものがどうしても出てくる。なるべく売れ残りのロスを失くすために、品物=染める模様をある程度絞らなければ、利益を出し難くなる。竺仙としても、思い切り商品を作って、思い切り売りたいところだが、なかなか今日のご時勢では、そうもいかない。

 

だから、昨年は染めた柄でも、今年は染めない柄が出て来る。また、同じ柄でも、素材や色を変えて染められるものがある。例えば、今までコーマ地を使って染めていたものが、綿紬や綿絽に変わっていたり、紺地に白や、白地に紺など、いわゆる単色使いだったものが、多色使いの玉むし浴衣に変えられていたり、という具合だ。

見本帳は、コーマ地・紬・綿絽・紅梅・長板中型・男物など素材別に分けられている。見本帳一冊に入っているのは、50~80柄程度。

中を見ると、コーマ地見本にある柄でも、綿紬見本にはない柄もあり、綿絽見本だけにある柄もある。困るのは、柄が気に入ったからといって、他の素材で染めてもらうことは出来ないこと。どういうことかといえば、例えば、綿紬の見本の中にある、「波に千鳥」の柄を綿絽生地で仕入れたくても、出来ないということだ。竺仙では、今年この柄を綿紬でしか染めないと決めたら、違う素材を使って新たに染め出すことをしない。

ということで、竺仙が今年染める品物は、この見本帳が全てである。見本布は、反物を2尺程度に切り落としたもの。つまり、見本帳に掲載しているものは、すでに一定の数が染め出されていると考えられる。

 

綿紬の見本。昨年までは藍地で染められていた「観世水に千鳥」が、今年はグレー地になっている。また、人気柄である「万寿菊」が、綿紬素材として復活している。

この柄は、ここ2年ほど、紺に白抜きの綿絽と、多色使いのコーマ地としてでしか染められていなかったのだが、やはり万寿菊には綿紬がピタリとはまる。私も、うちを担当する近藤君という若手の社員に、「なぜ綿紬を使わないのか」と、毎年のように言っていたが、やはり他店からの要望も強かったのであろう。定番商品なので、とりあえず「仕入れ決定」である。

 

綿紅梅と絹紅梅の見本帳。浴衣というより、夏キモノの雰囲気もあり、仕入れ価格も高い。だから、コーマや綿紬・綿絽に比べれば、少し慎重に模様を選んでいく。モノを見分ける時、まず最初に見本帳を一枚ずつめくっていく。それは一枚に付き、一秒もかからない速さである。その中で、気になる柄は半分に折って、後から見ても判るようにしておく。

上の画像は、綿紅梅見本帳の中から、最初の選択で目に止まった柄。渦巻き・波頭・矢羽・撫子などだが、最終的には、この中から2~3点に絞って買い入れる。

奥州小紋は、ほぼ夏キモノの域にあるもので、贅沢な品物の一つ。使われている型紙も凝ったものが多く、江戸を感じさせるような伝統的な柄が多い。画像は、向かい蝶・鉄線・ほおずき模様など。これならば、街着としても十分使えるだろう。

 

浴衣を仕入れる場合は、昨年から持ち越した品物を横目に見ながら選んでいく。毎年ある程度の数を買い入れているが、その年に全てが売り切れるということにはならない。必ず残るものが出てくるが、それはそれで良いと考えている。

竺仙の品物には、流行の心配がないので、去年仕入れたものであっても、今年新しく仕入れたものと同じように、売り場に並べることが出来る。先ほど述べたように、昨年は染めた柄でも、今年は染めてないものもあるため、かえって置いてある品物の模様の幅が広がることになる。スタンダードな品物は、専門店にとっては大変扱いやすい。

ここ何年かの傾向では、価格の高い紅梅や長板などの、夏キモノ的な品物から早く売れていく。また、綿紬や玉むしなどの売れ行きも良いようだ。反面、もっとも浴衣らしい、白地に紺抜き・紺地に白抜きなどのシンプルな品物の動きが鈍い。帯でいくらでも着姿が変えられるこれらの浴衣が、もっと見直されても良いと思うのだが。

 

浴衣に使う半巾帯は、現品見本のものが多い。麻無地ぼかしや、ミンサー帯、首里道屯帯などは、このところの竺仙の定番商品。色や図案は毎年少しずつ変わっていて、仕入れた浴衣の色や模様や、残っている品物などを考えながら選んでいく。

帯は、竺仙以外からも、博多半巾帯や紗献上・平献上、麻八寸、紗八寸などを仕入れ、キモノも浴衣以外に、小千谷縮や片貝などの各種木綿や、夏紬を入れている。今年扱う予定の夏物全体を見渡しながら、仕入れるモノを決めなければならない。

毎年、品物がどのように動くのか、全くわからない。仕入れの数が少なすぎるとお客様に満足して頂けないし、多すぎるとバイク呉服屋が支払いに苦慮することになる。適正な仕入れというのは、何年たっても難しいが、勘を働かせる以外にない。

 

竺仙のロゴマークが入ったダンボール箱で、品物を運び込む。店のカウンターには、所狭しと品物が並べられている。毎年こうして、夏の店先を彩る品物が決められていく。

染を予約した浴衣がうちに届き始めるのは、5月中旬から6月上旬にかけて。急がないと着る機会も、売る機会も無くなってしまう。竺仙は、呉服業界の中で、一番「時間に追われている」会社であろう。

 

毎年、何点かは新しい型紙が起こされて、新柄が染められるのだが、今年の図案でもっとも驚いたのが、「ウルトラマン」模様である。昨年のキティちゃんに引き続き、キャラクター商品のお出ましである。見本帳の中にもあったので、ここで御紹介すれば良かったと悔やんでいるが、仕入れるつもりがなかったので、写し損なってしまった。

サンリオや円谷プロとのコラボも結構だが、専門店としては、みじん縞やさやま縮のような、いかにも竺仙らしい品物を復活させて欲しい。会社が、品物に話題性を求めるのはわかるが、何となく「らしくない」ように思えてしまう。

しかし、毎年これだけの品物を作り続けるということは、大変なことで、ウルトラマンやキティは、販路を広げようとする竺仙の企業努力の証でもあろう。

 

我々小売屋に出来ることは、品物の素晴らしさをお客様に伝えて、一人でも多くの方に使って頂けるようにすること。少しでも仕入れる数を増やすことが出来れば、それは次のモノ作りに繋がっていく。竺仙は、未来へと江戸の伝統を残すことが出来る、数少ない会社なのだから。

今回仕入れた竺仙の品物は、今年も6月のコーディネートの稿で、御紹介してみたい。どんな涼やかさを表現できるか、私も楽しみにしている。

 

浴衣が売れ始める頃、桃も露地モノの出荷が始まります。見た目ではわかりませんが、桃にも沢山の種類があります。日川白桃・加納岩白桃・御坂白桃・一宮白桃等々、桃の産地である、笛吹市や甲州市の地名が付けられたものが多いですね。

それぞれ出荷時期が違い、糖度や味も少しずつ違いがあり、育つ実の大きさも異なります。バイク呉服屋も毎年7月に入ると、懇意にしている一宮町の桃農家から、県外の友人達へと送ることにしています。

その時に、「はねだし」と呼ばれ、傷がついて売り物にならなくなった桃を頂くことがよくありますが、これがまたたまらなく美味いのです。特に、鳥が突いたものは、どれを食べても間違いがありません。

県外の方は、桃は柔らかくてジューシーなものが良い、と思われている方が多いようですが、本当に美味いのは、硬くて甘くて、鳥が食べ残したやつです。バイク呉服屋は野蛮なので、よく皮ごとかぶりつきます。

桃の花だけでなく、桃の味も確かめに、夏にはぜひ山梨へいらして下さい。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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