バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

名古屋帯について考える(後編) 準礼装に向く名古屋帯を探そう

2016.02 28

うちの娘達もそろそろ、昔でいう所の結婚適齢期にさしかかっている。娘の友人達の中には、具体的な話が決まり掛けている人も、ちらほらいるそうだ。

最近の結婚事情を耳にすると、今の若い人達は予想以上に堅実に思える。お互いが結婚に同意すると、とりあえず籍を入れて一緒に住む。そして、二人で挙式や旅行費用を貯め、ある程度資金が出来たところで、披露宴を行う。もちろん、自分達の身の丈にあった規模で行い、親の援助を当てにしない。

 

ひと世代前までは、結婚というものが、家と家を繋ぐ儀式として考えられていたため、その経費は当人ではなく、家を代表する親が負担するのが当たり前であった。

結婚が、個人と個人を繋ぐものと意識され始めたため、儀礼は簡素化された。式の規模は小さくなり、カジュアル化する。仲人という、縁を取り持つ形式的な役割はとうの昔に無くなり、当人達とごく親しい、内輪の者だけが式に招かれている。

 

普段キモノとは縁がない方たちも、第一礼装用の黒留袖や喪服だけは必需品であったが、儀礼の変容は、多くの家庭から式服の必要性を消し去った。どうしても着用しなければならないモノから、着用しなくて済むかも知れないモノに変わったのである。

現在、フォーマルモノの必要性を感じている方々は、キモノを特別なモノとして意識しているからである。それはおそらく、どんな洋服を着用していても、キモノ姿には敵うモノはないと感じておられるということ。

そんな人達にとって、昔のような厳かさはなく、カジュアル化した式が増えても、キモノの位置づけは、変わることはない。第一礼装を身に付ける機会は、かなり限られているが、準礼装の品物ならば、いろんな場面で使うことが出来る。色紋付や付下げなどの需要は、このような意識を持つ人々により、支えられている。

 

さて、前回は名古屋帯の種類や仕立て方など、基本的なことをお話したが、今回は使い道について考えてみよう。名古屋帯というものは、簡単に締めることが出来る一重太鼓なので、一般的にはカジュアルの範囲で使うものと認識されている。

けれども、それぞれの帯の図案や作り方によっては、準礼装のキモノにも使えそうな品物もある。果たしてそれはどんな帯なのか、今日はここに限定して話を進めてみたい。

 

まず前提として、どうしても礼装としては使えないキモノのことを、述べておこう。

大島や結城などの紬類は、どんなに絣の細かい高価なモノでも、式服にはならない。これは現在のように、儀礼がかなりカジュアル化されていても無理である。例えば、「平服でお越し下さい」と結婚披露宴への案内状に記されていたとしても、Tシャツとジーパンで列席する人はいないだろう。男性なら、スーツまでは着なくても、最低でもジャケットくらいは羽織るだろうし、女性ならば、ドレスは着ないまでも、清楚なワンピースやスーツなどを使うだろう。

織物は、あくまでカジュアルなお洒落着の域を出ることは無い。紬地の訪問着や付下げなども商品化されてはいるが、これは準礼装にも使えない。もちろん、入学式・卒業式などでも無理で、もし使うことが出来るとすれば、気の置けない仲間内のパーティの席くらいまでだろう。

フォーマルに織のキモノが使えないので、当然、紬地の名古屋帯も使えない。あとは、織名古屋帯と染名古屋帯、さらに京袋帯はどうかということになる。これは使われるキモノの種類やその模様、帯の図案の格を見なければ、何とも言えない。

そして、付け加えれば、第一礼装の黒留袖・色留袖・振袖・訪問着には名古屋帯を使うことはない。必ず袋帯である。常識としてご理解されていることと思うが、念のため。

 

(黒地 松模様・付下げ  白地 雪輪に南天模様・九寸織名古屋帯)

まず、付下げから帯合わせを考えてみよう。最初に使うキモノは、黒地に松の枝葉だけで模様付けされたもの。ほぼ金だけで描かれているため、格調高く仕上がっている。このような付下げだと、一般的には袋帯を使うことになるが、そこをあえて名古屋帯で合わせてみた。

選んだ品物は、すっきりした白地の中に南天の花が描かれているもの。画像で判るように、太鼓柄の織名古屋帯である。金糸で雪輪を埋めて、紅白に配色された南天の実を浮き上がらせている。

松も南天も、新しい年の門出に飾られるもの。キモノと帯双方の、季節的な模様の繋がりも意識してみた。名古屋帯といえども、これだけ模様にインパクトがあり、金糸が織り込まれているようなものならば、少し重い図案のキモノにも負けない。

もしこの南天模様が、織ではなく染で付けられたものだったら、この付下げには合わせられない。織で表現されているからこそ重厚感が出てくる。また、雪輪の中に金糸が織り込まれていなかったら、印象が変わってくる。

準礼装のキモノに名古屋帯を合わせる場合、作り方や配色の違いにより、使えるモノとふさわしくないモノが出てくる。このすみ分けには微妙なものもあり、単純に地色や模様だけでは、判断出来ない。

 

(グレー地裾霞ぼかし・付下げ  白地 横段唐花模様・九寸織名古屋帯)

最初の松模様に比べれば、かなりあっさりした軽い付下げ。この品物の模様は、薄いピンクのぼかしが波のように入っているだけという単純なもの。春霞のような、優しい印象を残している。

キモノに重厚さがないので、帯もそれに合わせて模様の格を下げる。横段に図案化した花菱と、唐花繋ぎを配し、どちらかと言えば西洋的なモダンさを持つ名古屋帯を使ってみる。

ふんわりとしたキモノの雰囲気をそのまま生かすためには、帯の模様も、単純であっさりとしたものが良いだろう。ただし、この時注意しなければいけないのは、帯の模様がくだけ過ぎないことである。キモノの図案が単純と言えども、付下げである限り何でも良い訳はなく、それなりの格を維持しなければならない。

どの模様が準礼装に使えて、どれが使えないか、という判断は大変難しく、人により許容範囲も違ってくるだろう。むしろ、模様よりも糸の色ですみ分けた方が、単純でわかりやすいかも知れない。例えば、金銀糸が使われているか否かなどが、一つの基準となり得るだろう。

 

(一越ちりめん・桜色無地  金地 有職藤の丸模様・九寸織名古屋帯)

今度は、色無地で考えてみる。使うものは、はんなりしたおとなしい桜色のキモノ。これからこの無地に、三本の違うタイプの帯を合わせていく。

まず、最初は有職文様の一つ「藤の丸」が織り出された帯。有職文様は、平安期の公家装束に織り出された模様に端を発したもので、それなりの格を備えている。この藤の丸の他に、七宝や立涌、向かい蝶や鶴の丸などがあり、第一礼装のキモノや袋帯の意匠としても、大変ポピュラーな文様。

この名古屋帯は、有職文である上に金地色なので、袋帯とあまり遜色がない姿に映る。ただ、一重太鼓になっているだけである。こういう雰囲気のモノであれば、模様の重い付下げにも、ある程度対応出来るだろう。

 

(塩瀬グレー地 茶屋辻模様 山下智久・加賀友禅染名古屋帯)

今まで、織名古屋ばかりだったが、初めて染帯を使ってみた。模様は、オーソドックスな茶屋辻である。加賀友禅なので、当然染のみで表現されている。

帯姿は、かなり控えめな印象。無地だからまだ許せるのかもしれないが、帯の格を考えるとどうも弱い気がする。染帯でも、繍や箔が使われていると、模様によっては付下げまで使えそうなものがあるが、織名古屋に比べると、使用範囲はどうしても狭まる。

 

(紅色 七曜太子模様 龍村光波帯・京袋帯)

龍村の京袋帯を合わせてみた。この品物には、光波帯や元妙帯という名前が付けられ、実に模様の種類が豊富。正倉院に伝来する模様、ヨーロッパや西アジアで発祥した図案、さらに名物裂など、様々なモチーフを使っている。

前回お話したように、袋帯同様のフラットな形態で仕立て上がっている。太鼓部分にはギャザーが入れられ、ちょっと見たところでは、二重太鼓に見える。この帯を、無地や付下げにも使って欲しいという、龍村の意図がある。

二重太鼓に見せかけている仕立の工夫。準礼装の帯として、使う形態は整っているが、問題は中に使われている模様であろう。いくら龍村の帯でも、間道のような縞模様だと、フォーマルには合い難い。この七曜太子は、法隆寺に伝来した裂の絣模様をモチーフにしたもの。

違う図案の龍村帯。天平期に正倉院へ伝わった文様・緑地花鳥文錦を復元した「花鳥梅花文」。光波帯には、このような連続した小紋柄が多いので、無地キモノに合わせるとアクセントが付き、着姿が変わる。

 

桜色無地に使った名古屋帯三点。皆様なら、どのように使い分けられるだろうか。

 

礼装用の帯は、袋帯だけと決めてしまえば、悩まなくて済むかも知れないが、名古屋帯の出番がもっと多くても良い気がする。価格を考えれば、かなり求めやすい品が多い上に、袋帯には見られないような、個性的な図案のモノがあるからだ。

これを上手に使い回すには、帯それぞれの見極めが必要になってくる。使うキモノの種類、着て行く場、帯そのものの模様やあしらい方など、様々なことを勘案して、ふさわしいものを選んでいく。

バイク呉服屋にも、確固とした答えは出てこない。今日御紹介したコーディネートが、どこまで合っているのかわからない。ただ、フォーマルに関わることなので、かなり神経を使ったつもりではある。これがカジュアルモノならば、悩むことは何もない。

難しいかも知れないが、皆様がひと工夫されて、名古屋帯を使う場面が増えることになれば、大変嬉しく思う。

 

フォーマルの場におけるキモノの使い方は、かなり厳密に決まっています。

結婚式で母親が着用するのものは、言うまでもなく黒留袖で、襦袢は白、帯揚げや帯〆も白で金銀使いのモノです。キモノに慣れない方にとっては、使う小物までが制限されているため、堅苦しく思われるでしょう。

さらに、キモノや帯には格があり、使う場面に応じて使い分けをします。自分の立場や場所を考えながら、着るものを変えていく。このことも使う人にとっては、かなりの負担になっています。

けれども、決まりがあるキモノだからこそ、特別な儀式を演出できる訳であり、これが何でもかんでも自由になってしまったら、けじめにも節目にもなり得ないでしょう。

そして、面倒なことを乗り越え、色々なことが理解されてくると、これほど楽しめる衣装は無いでしょう。「どんな豪華なドレスを着て、高価な宝飾品を身に付けたとしても、キモノ姿の人には全くかなわない」と、キモノを使わない方からよく聞きます。

衣装として、キモノがどんな存在であるのか、この話がよく物語っているような気がします。

 

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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