バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

「紗袋帯」や「絽綴帯」に見る夏の文様・夏植物文様編

2015.08 08

大変便利なことに、読者の方がどのような言葉を検索して、このブログにたどり着いたのか、私の方でわかるようになっている。例えば、「ぐし縫い」と検索されて、このことが書かれている稿を読まれ、そこから他の稿へと進まれる方がおられるということがわかる。ほとんどの方は最初に、検索サイト「Google」を使われているようだ。

この情報は、消費者が何を知りたいと考えているのか、また、どんなことに興味を持っているのかを知る上で、かなり参考になる。このことを踏まえた上で、毎回の原稿を考える。内容が、出来るだけ偏らないように心がけているが、これがなかなか難しい。

また、直接店名を検索されてこのブログにたどり着かれる方もおられるが、面白いもので、「松木呉服店」と検索される方よりも、「バイク呉服屋」と検索されている方の方が多い。中には、「バイク屋呉服」とか、「松木バイク」とか、最近では「竺仙コーディネート、バイク屋」など、意味不明な言葉で検索されているような方もおられる。

これではバイク屋を探しているのか、呉服屋を見つけているのか訳がわからない。それでも私は、「松木呉服店」としてよりも「バイク呉服屋」として認知して頂ける方が、嬉しい。ブログ開設当初、「変わった呉服屋」として知って頂くにはどうしたら良いかと考え、この名前を付けたのだ。その意味でも、「バイク呉服屋」の名前で覚えて頂けることは、大変光栄に思える。

 

今日は、立秋。今年の夏は、日本全国各地で記録破りの暑さとなっている。東京では、最高気温が35℃以上の酷暑日が一週間以上も続く。ここ数年の気候変動の影響だろうが、それにしても息苦しいような毎日だ。

それでも暦の上では秋、七草を始めとする秋草文様を使う季節の到来である。読んでおられる方に、ほんの少しでも秋の気配を感じ取って頂けるように、前回の波文様に続き、夏帯に使われる植物文様を御紹介することにしよう。

 

薄物に表現される夏の草花というのは、思うより少ない。浴衣の模様としてならば、ある程度大胆に、個性的に付けられるものもあるが、帯の文様として見る事が出来る植物は、ある程度限定されているように思える。

紗袋帯や絽綴帯は、フォーマル用なので、いっそう堅い感じの模様付けとなる。絽付下げや絽訪問着、絽無地あるいは絽留袖などに使われるだけに、少し格式張ったような古典図案の中に、旬としての夏植物が表現されている。

夏植物も、初夏・盛夏に咲き誇るものと、立秋以降の秋の七草に代表されるものとに分かれる。それぞれどのような模様として帯の上に表れているのか、見てみよう。

 

(白地紗袋帯 市松に竹文様 杜若・紫陽花・藤 西陣 泰生織物)

杜若、紫陽花、藤の花が、市松模様の中に織り込まれた紗袋帯。この花々は5月から7月上旬頃が旬の時期で、初夏の植物文様である。

この中で、最初に咲くのは藤の花。季節は4月下旬から5月にかけて。藤が文様として登場したのは平安期からで、特にこの時代の為政者・藤原氏に因む花として多くの文様が現れる。この当時は、遣唐使の廃止により、全ての文化が唐風から日本固有の国風へと転換された時代。影響を受けた公家や貴族の服装も当然変化し、単色の衣装を重ね着する束帯や十二単を正装とするようになっていった。

単色衣装であるがために、その生地の織り目に様々な工夫が凝らされて、競い合った。これが公家装束にあしらわれている有職文様の始まりである。特に藤原氏と縁のある藤の花は、藤の丸や八つ藤などに代表される意匠となっていった。

杜若は、菖蒲や花菖蒲などの他のアヤメ科の花々と共に、5月から6月の花。どちらかと言うと、入梅前の初夏の花という印象が強い。杜若をモチーフにした代表的な文様と言えば、ご存知八橋文様であり、多くが水を意識させる流水や橋などと一緒に表現されている。そして花は、水面からスッと立ち上がるように描かれる。

帯の前の模様は紫陽花。紫陽花は、うっとおしい梅雨をひと時の間でも忘れさせてくれる6月の花。初夏を代表し、雨が似合う花でもある。この帯は太鼓腹と呼ばれる形態で、最初の画像は帯のお太鼓部分、上の画像は前部分に当たる。

一番目立つ前の柄を紫陽花にしたのは、藤や杜若と比較して、より夏に近い花のイメージだからであろう。もとより紗の帯なのだから、三つの中からこの花が選ばれたのは当然かも知れない。

 

青楓に水辺模様、薄クリーム地・絽訪問着に合わせてみたところ。キモノの図案が少しおとなしいので、帯の薄ピンクの紫陽花がより印象に残る。

お太鼓部分は、このような感じで模様が出てくる。無地部分に織り出されている竹文様が、アクセントになっている。

 

(白・薄鼠横段ぼかし紗袋帯 格天井文様 藤・菊・鉄線・萩 西陣 泰生織物)

こちらは、初夏と盛夏の花と秋草が混在して模様付けされている。花の旬を強く意識させずに、夏の間ならばいつでも使えるものということになろうか。

各々の花は格天井(ごうてんじょう)文様の中にあしらわれている。格天井とは、格式の高い寺社や城の堂や客殿の天井に見られる様式のことで、梁の下に格子状に組まれたものは、平安以降に現れた日本固有の和様式である。

この格子組みの中には、様々な装飾がなされ、いわば天井画と呼ばれるような贅沢で豪華な模様が付けられていた。和様式ということで、鎌倉以降に勃興した鎌倉仏教の代表的な寺院の堂には、この格天井画が多く見られる。

曹洞宗大本山・永平寺や臨済宗大本山・建長寺、さらにあじさい寺として知られている鎌倉・円覚寺などの禅寺や、やはり鎌倉期に起こった日蓮宗の総本山、久遠寺などには、贅を尽くして描かれた見事な格天井画を堂の中に見ることが出来る。この格天井を模した図案が格天井文様であり、この帯も画と同じように格子の中に夏の花々が織り出されている。

前部分の模様。一部が破れた格天井の中に、菊と鉄線があしらわれている。鉄線は風車のような花弁に特徴があり、盛夏の代表的な花である。クレマチスという洋名が付けられているせいか、少しモダンな印象が残る花。

菊は秋を代表する花であるが、初秋に使われても良い。萩は秋の七草のうちの一つ。前の帯同様、ここにも藤の花が見られるが、藤は垂れ下がって咲くもので、その特徴的な姿が見た目にも美しく、意匠にされやすいものだからだと思える。

先ほどと同じキモノを使って、前を合わせてみたところ。こちらの方が、夏が終わりかけた頃の、初秋の装いと映る。最初の帯は紫陽花、こちらは菊という、それぞれの花の旬によるものだ。さらに、格天井文様が帯の格を上げているようにも思える。

 

この帯を織った泰生(たいせい)織物は、西陣の西のはずれ、北野天満宮の門前に店がある。西陣帯であることの証明・証紙番号は一桁の8番。このことからも、伝統ある織屋であることがわかる。

泰生織物は、糸質と意匠にこだわりを持ち、特に金銀糸や箔はその一つ一つの作業を全て手作業で行っている。見た目だけを考えるのではなく、あくまでも帯の質感を重視した仕事がなされている。

この紗袋帯を見ると、紗生地の上に網の目のような細かい模様が織り出されているのがわかる。上の拡大した画像の藤の花部分を見て頂きたい。花の文様には紗の目が入っていない。これは、菱のような網の目を使って糸を綴っているからで、そのことにより文様の花が、ふっくらと盛り上がったような織り方になっている。それは唐織のようにも見えることから、泰生織物ではこの帯を唐縫帯と呼んでいる。

 

あと三点、簡単に夏植物文様の帯を御紹介しておこう。いずれも秦生織物の帯から。

これは、前の帯と同様に、格天井文様。模様の脇には観世流水が織り出され、格天井の中の花は、花の丸になっている。使われている植物は、笹・杜若・楓・女郎花・紫陽花・牡丹。笹と牡丹は夏の意匠としては珍しい。どちらかと言えば、この二つはそれぞれ冬・春の花という位置づけになる。楓は、秋の中でも晩秋のイメージが強い。使われる季節との違和感を「花の丸」という文様で消している感が強い。

橙色段ぼかしに短冊文様。短冊の中に様々な花が咲き誇る。鉄線・杜若・沢潟(おもだか)といった夏植物と、菊・桔梗・楓といった秋植物が混在している。沢潟は、その名前でもわかるように水地の草で、先を少し尖らせた剣のような三枚の葉に特徴がある。この帯の中の、杜若の上の花がそれである。

垣根と流水の中に、萩と花の丸が組み込まれて構成されている図案。植物は鉄線以外は秋の七草。桔梗・撫子・女郎花・萩でどちらかと言えば、立秋を過ぎた頃から、9月までが旬といえる花々。薄物だけでなく、9月の単衣モノに合わせても良いような模様。

 

夏植物と言っても、それぞれの花が幾つも組み合わされて一つの模様となっていることが、おわかり頂けたであろうか。ご覧になった方には、前回の波文様とはかなり違う雰囲気だと感じられたのではないだろうか。

旬を模様の前面に出したもの、季節をあまり絞らず使い勝手が良い模様付けがなされたもの。柄の中に使われている花により、帯の印象が変わっていく。また、花それぞれに付けられた色や、地の色によっても変わるだろう。もちろん使われるキモノとのコーディネート次第でもある。

薄物や単衣モノに使われる帯ならではの意匠を探すことも、この季節ならではの楽しみ。皆様にも、自分らしい夏姿を演出するために、薄物でなければ出会えないような個性的な帯を見つけて、お召し頂きたいと思う。

 

 

立秋は秋の入り口。大伴家持の詠んだ歌にこんなものがあります。

時は今は秋ぞと思へば 衣手に吹きくる風の しるくもあるかな(新古今和歌集・秋)今が秋と思えば、袖の中に吹き込む風にも、はっきりと秋の気配が感じられるだろう。

「衣手」というのは、キモノの袖のこと、また「しるく」は「著しく」で、「はっきりと」という意味になります。たとえ暑い日が続いていても、秋になったという思いさえあれば、それなりの涼やかさを感じることが出来るということでしょうか。

とても今の日本人は、家持のような心情にはなり得ないでしょう。今夜も冷房なしには、眠りに付くことは出来ないようです。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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