バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

「心地よさを求めて」 少し贅沢な夏襦袢 海島綿・小千谷縮・紋紗

2015.06 26

不快指数とは、「蒸し暑さ」の度合いを、温度と湿度から割り出したものだ。気温が高くても、湿度が低ければ、指数の値は低いが、反対に余り暑くなくても湿気が多く混じると、人は不快と感じ、指数も上がる。

湿度は、空気中の水蒸気の割合を示す値なので、梅雨時には当然、大きくなる。不快指数が75を越えると、不快さを感じる人が出始め、85でほぼ全員が不快となる。

不快指数が75を越える日は「不快日」と呼ばれるが、日本では北国の一部の地域を除き、一年のうち30日~60日もの不快日がある。近年は、温暖化の影響も相まって、増える傾向にあるようだ。

 

高温多湿が進む中、キモノを少しでも涼やかに、気持ちよく着るためには、どのような工夫が必要なのか。それは、表地ではなく、長襦袢の素材が大きな意味を持つと思われる。生地の吸湿性や通気性、肌触りなどは重要なポイントだ。それとともに、手入れが容易であるかどうかも、見逃せないところであろう。

長襦袢の選び方次第で、着心地に格段の違いが出てくる。昨夏も、このブログで、夏の襦袢についてお話させて頂いたが(2014.7.26 夏襦袢の素材を考える)、今年は、少し贅沢な素材を使った襦袢をご紹介しながら、心地よく夏キモノを使って頂ける方策を、改めて探ってみたい。

 

(左から、紋紗・絹  海島綿・綿絽  小千谷縮・麻)

心地よい長襦袢の条件とは何だろう。まず大切なのは、暑苦しさを感じさせないこと。それは、湿気を吸い取る力と、風を通す力に優れた素材ということになろうか。

じっとりとかいた汗が、生地に貼りつき、それが体に伝わってしまえば、不快さは深まる。これを襦袢生地で遮断できれば、着心地は格段に良くなるだろう。さらに、熱が体の内側にこもらず、外へ発散出来れば、なお良い。

これから、三点の異なる素材の長襦袢をご紹介するが、いずれもこの点に優れた品物である。それぞれに特徴があり、使い勝手も違うので、比較しながら見ていくことにしよう。

 

(海島綿・綿絽長襦袢 千總)

綿と言う素材ほど、多くの衣料品に使われているものはないだろう。それと同時に、綿ほど様々な種類を持つものも珍しい。世界の90カ国以上で、栽培されており、それぞれに特徴を持つ。

綿は、その繊維の長さにより、次の三つに分類される。一本が22.2mm以下のものは、デジ綿と呼ばる短繊維。原産地はインドやパキスタンで、綿の中では一番短く、主に脱脂綿などに使われている。

22.2~27.8mmのものが中繊維・アップランド綿と呼ばれているもので、これが綿・衣料品の原料として、一番普及している種類。原産国は主にアメリカ。綿輸入量の40%を占める。

28.6mm以上のものが、長繊維・バルバデンセ綿となり、高品質だが、栽培量は少なく希少品。今年の1月に書いた、綿薩摩の稿の時に少しお話したが、(2015.1.31 絹をも凌ぐ風合い)滑るような光沢と柔らかな風合いを持つ綿薩摩で使用しているのが、この長繊維・エジプト綿である。この綿の80番手という細い糸を使用しているからこそ、絹と見間違うような着心地を演出することが出来るのだ。長繊維綿には、エジプト綿のほかに、インド原産のスピン綿や、中国西域で作られているトルファン綿などが知られている。

この長繊維綿(バルバデンセ)の中でも、35mmを越える繊維を持つものを、超長繊維綿として、別格に扱う。その代表的なものが、海島綿(シーアイランド綿)なのである。ベリーズ・バルバドス・アンティグア・ネービスといったカリブ海に浮かぶ小さな島国で、僅かに作られている超希少綿。その生産量は、年間僅か50万ポンド・約千俵。これは、世界の全生産量の10万分の一にあたり、その希少さがわかる。

 

この、超長繊維・海島綿を使用しているのが、上の長襦袢である。綿という繊維は、そのほとんどがセルロース(繊維素)と呼ばれる炭水化物で形成されている。海島綿は、繊維が細く長いのと同時に、自然の撚りが非常に多く付いている。撚りが多い繊維で織られたものは、嵩が増す。この嵩こそが、柔らかな風合いをもたらすのだ。(嵩のことはパルキーとよばれるので、嵩が増すことを、パルキー感が高まると言う)

綿と言う繊維は、中が空洞になっていて、内と外の温度差が高まると、内側の水分を外に出す性質がある。海島綿そのものにセルロースが厚く付いているので、より以上に、外へ水を放出する要因となる。さらに、嵩が多いことでも、より大きな吸湿性を持つことになるのだ。

 

画像では、すべるような滑らかさをお伝えできないのが、もどかしい。

この生地の表面に触ると、まるで絹のように滑る。これは、海島綿の中に他の綿には見られないような、油分が含まれていることが原因である。さらに、光に対する反射度が通常の綿よりも50%も高いため、独特の光沢をかもし出す。海島綿だけが持つ、絹と見間違うような、しなやかで柔らかい風合いは、こうして生まれているのである。

 

海島綿は、1980(昭和55)年に設立された、西印度諸島海島綿協会という団体で、厳密な製品管理がされている。この希少な繊維を使って品物を製作することが出来るのは、協会に加盟している社に限られている。

上の画像は、長襦袢生地に貼られているタグだが、このwest indian sea island cottonの表示とマークのない品物は、海島綿を使った製品と正式に認められていない。これは、類似品を排除するのと同時に、この素材の価値を高めるためのもの。現在、海島綿を使用した長襦袢を製造しているのは、千總だけである。

この綿が優れているのは、着心地ばかりではない。その使い勝手にもある。それは、極めて強度が優れていることで、繰り返し洗って使っても、品質が変わらないということ。綿と言うことで、若干縮むことはあるが、自分で洗うことが出来る。使い手にとって、自分で気軽に手を入れることができることは、何よりである。最初に仕立てる前に、水通しをしておけば、ある程度縮むことが防げるだろう。

 

(小千谷縮・平織麻長襦袢 西脇商店)

麻については、昨年もご紹介しているので、簡単にお話しよう。麻は、汗を吸い取る力、及び気体となった水気を発散する力は、どの繊維より優れている。つまり、気分よく涼やかに着るということに関して言えば、麻に勝るものはない。ただ、難があるとすれば、独特のゴワゴワした生地の質感である。そして、シワがどうしても付いてしまうという、麻特有の性質も気になる。

キモノが柔らかい生地のもの、例えば絽のようなものだと、どうしても馴染みが良くない。この違和感に目をつぶれば、どんなキモノの下にも使えるが、やはり、カジュアルの織生地の品に使う方がふさわしい気がする。自分で洗うこともできるので、普段着に使う襦袢の素材としてもっとも使い勝手の良いものであろう。

これは、平織の襦袢だが、麻には絽や紋織のものもある。こちらの方が、より涼やかで、着心地も良い。また、麻糸の細さ(番手)によっても質感が違う。番手の大きい細糸が使用されているものが、良質であることは、言うまでもない。

 

(紋紗・絹紋織紗長襦袢 加藤萬)

紗という織物は、もじり織という製法で作られた独特なもの。これは、二本の経糸を捩り(もじり)、それを緯糸の中に織り込むことで生まれる、目の粗い生地のこと。上の画像でわかるように、いかにも風通しが良さそうな織である。

紗を使い、模様の部分だけを平織にして織り出すと、生地から柄が浮き上がるように見える。これが紋紗である。黒や濃紺の濃い色の紋紗のキモノは、下に白い襦袢を付けると、平織の模様が浮かび上がり、何とも涼やかな着姿となる。

この紋紗をそのまま襦袢に使ったのが、上の品物。萩の文様が、紗生地から浮き上がるように見えている。絽も紗と同様、もじり織なのだが、こちらは、一定の糸の間隔を置いて、二本の経糸と緯糸を交わらせていく。七本間隔なら七本絽、五本間隔なら五本絽(縁起の良い、七・五・三の間隔になっている)

紋紗に織り出される模様は、キモノであれ、羽織であれ、襦袢であれ、夏らしい図案が選ばれる。流水や波、桔梗やつゆ芝などが代表的なもの。

絽は柔らかく、なめらかな質感なので、肌触りが良く気持ちよく使うことが出来る。ただ、吸水性ということで考えると、絹は少し弱い。時には、浸み込んだ汗が生地に貼り付くような感じを受けることもある。その点、紋紗生地は、浮き上がった模様部分以外は、粗い織り目が付いていて、劣った絹の吸水性に余りある通気性を持っている。もちろん、吸湿性や放湿性にも優れているので、気持ちよく使うことができるだろう。

絽のようにすべるような感覚の生地ではないが、シャリっとした着心地。絹なので、麻のようなゴワつきはなく、あくまで柔らかい。この性質を勘案すると、フォーマルモノの染モノ、絽の訪問着や付下げ、無地や小紋などの下に使う襦袢として、もっとも相応しいものと言えよう。

絹なので、手入れを自分でするということになると、少し躊躇する。水に弱く縮みやすいという欠点があるので、自分で洗うことになれば、心配になる。最初に仕立てる前に水通しをしておけば、ある程度防げるだろうが、慎重を期すならば、やはり専門の洗い職人のところで手入れをする方が、無難であろう。

 

今日ご紹介した三点の異なる素材の夏襦袢は、化繊の襦袢やうそつきなどに比べれば少し高価で、贅沢なモノだ。価格は、いずれも3万円台である。しかし、その値段に見合うだけの、着心地を得られることは、間違いないように思う。

汗にどのように対処するか、というのが着る方にとって夏の最大の課題である。ここが少しでもクリアされれば、薄物を使う機会は格段に増えるだろう。

夏物の下に使う襦袢の素材というものに、特にルールはない。本文に書いたように、三点の品物には、それぞれ特徴があり、少しずつ利点と難点があるように思う。それを考えた上で、使う方が一番着心地が良いと感じられるものを選んで使えば、それで良いだろう。

 

不快な気候の中でも、見る者を涼やかにさせるのが夏キモノです。ちょっとした工夫をすることで、多くの方に気軽に薄物を楽しんで頂きたいと思います。

着姿を見ている者以上に、着ている方自身が、爽やかな心持でいて欲しいですね。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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