バイク呉服屋の忙しい日々

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三年目を迎える「バイク呉服屋」のコラムブログ

2015.05 17

一昨年の5月17日から書き始めた、このコラムブログも、今日で丸二年。合計215回の稿を載せてきました。

一年目の来訪者は18000人あまり。今日現在では84500人余ということは、この一年で66000人もの方に読んで頂いたということになります。一日の訪問者も、100人から250人ほどとなり、購読項目数も150から350に増えました。購読項目というのは、稿別にその日読まれた数のことで、私だけにわかるようになっています。

これまでに、ブログに関するご感想や、ご質問・ご意見など多数頂戴して、大変嬉しく思います。県内はもとより、他県の方(割と遠方からが多い)、時には海外からメールを頂くことがあり、私の書いたつたない文章が、何かしらのお役に立てていれば、幸いなことと思っています。出来る限り、丁寧にお返事をさせて頂いておりますが、行き渡らないところもあり、この場を借りてお詫び致します。

 

さて今日は、三年目を迎えるにあたり、この小さな呉服屋のことを、少しお話したいと思います。

 

今日の店先。単衣向きの塩沢絣と十日町紬を置いた、シンプルなウインド。

 

バイク呉服屋は、小さな地方都市で、夫婦二人だけで店を切り盛りしている小さな店。主人である私が、毎日本田のスーパーカブを駆使し、お客様の家を走り回り、キモノや帯の便宜を図る。仕事は常に対面で行い、ネットでの販売、直し仕事の依頼は受けない。

展示会をすることはなく、基本的には宣伝もしない。置いてある品物は、全て私が取引先から買い取ったものであり、これを日常の中で丁寧に売っていく。扱う品のフォーマルとカジュアルの比率は、3:7でカジュアルモノの方が多い。紬・小紋・名古屋帯などの、普段使いの品物の扱いは、年々増える傾向にある。

また支払いに関しては、カードやローンの扱いが出来ず、現金主義である。但し、昔ながらの掛売りや通い帳などを使う方が何人も存在する。

 

ブログを読んで頂いている方ならば、扱っている品物については、ある程度理解して頂いていると思うが、うちに置かれているものは、一定以上の質にこだわったものだと、自分でも考えている。もちろん都会の有名専門店のように、良質のものを沢山店先に並べることは出来ない。やはり資本力の差であり、販売力の差である。

山梨県全体の人口は80万、甲府市は20万人に届かない。うちの商圏は県全体に広がっているが、それでも品物の質に、一定のこだわりと理解のある消費者はそれほど多くない。専門店の商いの機会と商圏の人口には、やはり関わりがあるだろう。売れていく品物の数に限りがあり、うちにも余計な資産がある訳でもないので、店に溢れるほど品物を買い入れるようなことは出来ないのだ。

とはいえ、私が商いの量を求めることはなく、まして一人なので、これでも今の仕事で手一杯と思える。お客様お一人お一人の、「痒い所に手が届くような」仕事の仕方を心がけているので、時間はかかる。

簡単に、当店の特徴をご紹介させて頂いたが、ナリは小さくても、呉服専門店として、それなりの気構えはあるというところだろうか。

 

入り口横の小ウインド。五月なので、枇杷の染め帯を飾ってみた。

 

このブログを読んで、初めて来店される方が少しずつ増えているが、その方々に呉服屋の持つイメージを聞いてみると、押しなべて同じような答えが返ってくる。

とにかく敷居が高い。品物を見せてもらうと、買わされそうで恐ろしい。気軽に相談に乗ってもらう雰囲気ではない。知識が無いので、言うがままになってしまう。展示会などへ行けば、好むと好まざるとに関わらずモノを売りつけられる。

負のイメージのオンパレードと言っていい。呉服屋、いや呉服業界というものに対し、消費者がどれだけ信頼を置いていないのかがよくわかる。私だって、こんな店や業界は恐ろしい。

 

どうして、こんなことになったのか。それは一言で言えば、モノを売ることだけ、利益を求めることだけが最優先され、もっとも大切な、お客様に向き合う、説明するということを疎かにした結果と思われる。

価格と商品価値の適切な説明はもとより、加工(仕立や直しなど)に関することも、具体的に何をどのように施すのか、などの話をしていない。しないというより、知識がないので出来ないといったほうがいいだろう。

とにかく、どのように買わせるかという商いの手管のみを追求し、品物のことや、肝心な呉服屋の仕事そのものをないがしろにしたためなのだ。これはある意味、「呉服というものはわかり難いモノだから消費者にもわかるまい」という店の驕りそのものとも言える。

ただでさえ難しく、その上価格も高いということになれば、より以上に丁寧なお話をしなければならないのに、この有様である。今では、ネットなどを使えば、ある程度の知識がどなたにも持てるようになっているというのに、いつまで、こんな手管まみれの商売をするのか、その認識を疑う。

 

ブログを読んで来店される方は、およそ50歳以下の若い方である。この方たちの特徴は、品物はもちろん、呉服店の仕事についてもっと知りたいと思っている。そして、ネットでは体験できない「店での生の声」を聞きたいと思い、やって来るのだ。

来店される方の目的は、もちろん求めたいモノがある場合もあるが、様々な古いモノを直したい人もいる。自分の振袖を娘に着せたい人、自分の派手になっている小紋で七歳の祝着を作りたい人、初めてキモノを着てみるのだが、箪笥に眠っている母親の品が再生できないか相談したい人。古着市やリサイクル店で求めたものを直したい人。

店を訪ねる方それぞれに、異なる希望があり、相談事がある。受ける店として大切なことは、お客様に寄り添うことであろう。じっくり話を聞き、何を一番望むのかを理解することが、仕事の始まりである。

新しいモノを作るにしても、古いモノを直すにしても、お客様とのコミニュケーションを欠けば、良い仕事にはならない。店はお客様を納得させるだけの、智恵と知識を提示しなければならない。

新しい品は、使う方に相応しい色と模様、さらにどんな場で使われるのかまでを勘案して、お勧めする。もちろん帯や小物のコーディネートを提案する力も要求され、価格も納得されるものでなくてはならない。古い品の直しならば、もっとも使いやすく、廉価で直る手段を考える。そのために直しを請け負う職人と直接話が出来るよう、いつも準備をしておく。

 

お客様に向き合うということは、否応無く時間がかかる。しかし、この時間こそが、お客様にとって有用で楽しい時間なのである。新しいモノを探したり、選んだり、コーディネートを考えたりすることは、ある意味楽しくなければウソだ。直しの場合でも、思い入れのある品物などをどのように直して、生まれ変わらせるか考えるのは、楽しいことだ。

つまり、呉服屋へ来ることは、楽しみと思って頂かなければならない。これが苦痛や不安が残るようでは、駄目である。そしてネットで経験できないような、リアルな店という場所での相互のやり取りを、「良かった」と感じてもらえれば、小売店として認めてもらえることになるだろう。

 

もう一つ、敷居の高さをいかに下げるかということも考える。私は、店のドア(自動になっているが)は、いつも開け放しにして置くように心がけている。誰でも気軽に覗けるように、という思いからだ。何を求めているのかなどと声を掛けることは当然しない。

今なら単衣に向くものを飾ってあるが、その爽やかさだけを感じ取って頂くだけで十分だ。お客様が店の品物を見て、自分の箪笥にある白い紬絣を今度着てみようかと考えられるかもしれない。これでいいのである。

 

また、店主である私そのもののあり方も大切だ。私自身「呉服屋の主人らしい姿でありたい」などと考えてもいない。格好や見映えなどはどうでも良いことで、大切なのは呉服屋としての仕事の進め方にある。都会の老舗呉服店の店主と同じようなイメージにする必要は全くないし、自分でも御免こうむる。

こう話さなくとも、このブログの「むかしたび」や「出張ひとりメシ」の稿を読んでいただければ、呉服屋の主人とは程遠い姿が浮かぶのではないだろうか。

 

最後に、最近ブログを読んで来店された方の、私の第一印象を書いておく。

「バイク呉服屋というから、元ヤンキーか暴走族の関係かと思ったけど、普通ですね」。髪型はリーゼント、皮ジャンパーの姿で仕事をしていると思っていたのだろうか。「熊はどこで飼っているのですか」。ヒグマを手慣付けていたのは若い頃のことで、今は奥さんに飼い慣らされているような状態である。店にヒグマが居たら、一大事である。

 

今日は節目の日なので、店のこと、仕事の進め方などを話してみました。遠方からメールを頂くと、お会いしてお話を伺えればと切に思います。地方の小さな呉服屋が書くとりとめのないブログを、これほど沢山の方に読んで頂いているということは、日本の民俗衣装によせる関心は、まだまだ高いものがあるという証左なのでしょう。

これからも、呉服というもの、そして呉服屋の仕事というものを少しでも知っていただけるように、様々な角度からお話をしたいと思っています。月に7回の更新は、かなりハードですが、出来るだけ今のペースを守りたいですね。

よろしければ、店の方にもお立ち寄り下さい。ブログの感想を直接お伺いできるのも、私の楽しみですので。土・日・祭日はほとんど在店しております。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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