バイク呉服屋の忙しい日々

職人の仕事場から

和裁職人 保坂さん(7) キモノの縫い込みと寸法直しの限界

2015.04 18

この「バイク呉服屋の忙しい日々」ブログの設計とデザインは、東京・西新宿(以前は水道橋・本郷にあった)の「ひでじま」という会社に依頼して製作して頂いた。HP製作を外注に出すことはよくあるが、ブログだけというのは、めずらしいと思う。

ほとんどの場合、会社や店のブログはHPの中に備えられているが、バイク呉服屋はHPを持っていない。かろうじて店舗案内があるくらいだ。

大概のブログは、日記のようなものである。店の出来事を簡単に記したり、個人の身の回りで起こったことについて感想を述べたりと、どちらかと言えばとりとめのない話になっていることが多い。

 

このブログは、毎回一つのテーマを決めて、「一話完結コラム」のようになっている。読み切りにしたのは、訪問されて読んで下さる方に、余韻を残したかったからだ。これは私自身が、情報を伝えるという意識を持って書かないと、読者の心に響かない。

少しでも参考になったり、面白かったり、興味を広げてもらったりしなければ、再度訪問してはもらえない。だから、通り一遍のことでは駄目なのだ。HPは無くとも、呉服屋の仕事について理解して頂けるようにするというのが、このブログの大前提である。

 

私が求めるような目的のブログを作るとすれば、無料で作れるような既製のものでは読み難く、その上広告などがあれば邪魔になるだけ。ブログの内容以前の問題として、訪問された方がすっきりと読みやすく、簡潔で個性的なページにしなければならない。オリジナルなものを依頼したのは、こんな訳である。

別設計のブログなので、特典が付いている。それは、訪問された方がどんなキーワードで(グーグル等の検索で使った言葉)このページにたどり着いたのかとか、どの稿が何人に読まれたのかなどが、私の方でわかるようになっている。

つまり、読者の知りたいことや興味のあることが何かという情報が、ブログそのものからもたらされるのだ。これは、情報を伝える側として大変ありがたい。その結果を見て、読者が関心を持っていることをテーマとすることが出来る。

 

よく読まれている稿の一つが、寸法直しについてである。また「裄直し」とか、「袖丈を広げる」などという言葉をグーグルで検索し、ここを訪ねて来られた方も多い。以前にも、寸法直しのお話はさせて頂いたが、改めてもう一度出来るだけわかりやすく書いてみたい。

多くの手直しが、丈を長くするというものなので、その直しの可否に深く関わる「縫い込み」について考えながら、話を進めよう。

お客様の方でも、生地に触っていただけば、縫い込みの有無がわかるので、ご自身でどのくらいの寸法が出せるのか、ある程度判断が付けられるようになる。知っておけば、キモノの使いまわしを考える時に、役に立つだろう。

 

キモノの寸法を長くするには、縫い込みが入っていなければ出来ない。また、この長さで、直せる範囲が決まる。寸法には直せる範囲があり、限界もある。縫い込みは、仕立職人が意識して入れておく箇所と、反物の巾で決まってしまうところがある。

この話は、以前にもさせて頂いている。(昨年2・11「裄の寸法をどう考えるか」や、一昨年8・25と9.6「寸法直し、ここを見る」の稿) もしよろしければ、合わせてお読み頂きたい。今日の内容は、ある程度これと重複するものになるが、ご容赦頂きたい。

 

まず、身丈を長くするための、縫い込みについて。

キモノの中揚げを写したところ。(縫い込み2寸)

画像では、生地にほんの少しスジが付いて、ふくらんだように見えていると思う。手で触ってみれば厚みがあり、明らかに生地が中に入っているのがわかる。和裁職人の保坂さんによれば、中揚げとして丈の中に縫いこんでおく寸法は2寸が基本。

2寸は、約7.5cmになる。例えば、身丈4尺寸法のキモノに2寸揚げが入れてある場合、4尺2寸程度に長く出来る。4尺は身長150~153cmくらいの人の丈なので、単純計算でも160cmほどの身長なら対応出来ることになる。

中揚げが1寸なら、156cmくらいまで。まったく入れてなかったら、直せなくなる。但し、身丈の場合、残り布や別布を間にいれて寸法を長くする「胴ハギ」という方法が残されているので、揚げがなくても、全く直らないということにはならない。(ハギを入れることは、かなり手間がかかるが)

中揚げは、生地が多く残ったからといって、全て入れ込んでしまうことはない。あまりに多く揚げを入れすぎると、着心地に影響する。2寸程度というのは、それを勘案した寸法である。(子どもキモノの中揚げはまた別なので、かなり長く縫い込みが取られている)。

このように考えると、中揚げをはずす場合の身丈直しは、8cm程度が限界ということになるだろう。母から子へキモノを譲る場合、身長差がこの8cm以内ならば、直しやすいということだ。

 

縫い込み部分の拡大。こちらの方がわかりやすい画像かもしれない。中揚げのぐし縫いのところ(画像上部の白糸の縫い目)から下へ、約2寸縫い込みがなされている。

身丈の中揚げに関しては、キモノの種類により、施しの有無に差がある。フォーマル品の、黒・色留袖や訪問着、付下げなどは、柄を合わせる位置というものがあらかじめ決められているため、自然と中揚げとして入るところが生まれる。つまり仕立て職人が、生地を中に入れておくという意識をせずとも、揚げが付けられることになる。

一方で、柄合わせの必要がない、無地紋付や喪服、さらに紬や小紋などには、中揚げの意識が無く、何も入っていないことがある。これは仕立の時に、「自分より大きい人に譲ることがあるかもしれない」と想像せず、自分だけのキモノとして作ってしまったからだ。カジュアルモノの方が、中揚げの有無をより注意すべきかと思う。

 

なお、直し方であるが、中揚げの縫い込みをはずして、単純に身丈だけを大きくする場合には、キモノ全部をほどく必要はない。身頃とおくみ、衿ははずさなければならないが、仕立職人だけで対応出来る。これが、裄や身巾や袖丈など、全ての寸法を同時に変えなければならない時は、トキ、スジ消しの必要が出てくる。

 

次は、袖丈を長くするための、縫い込みについて。

キモノの袖先を写したところ。(縫い込み1寸5分)

ここも、手で触れてみれば、中に生地が縫いこまれているかどうかが、判断できる。通常、袖の縫い込みは1寸5分~2寸5分の範囲で入れてある。

袖丈というものは、標準寸法から大きく変わることはない。1尺3寸が基準になっていて、身長や年齢、それにキモノの種類などにより若干の変化がある。1尺3寸より袖丈が長くなる場合は、振袖などを除けば、身長が高い人や、若い人が訪問着や付下げを使うケースなどである(どんなに長い場合でも1尺5~7寸まで)。

また、年齢によっては、1尺3寸より短い袖丈寸法にする場合もある。よくおばあちゃんのキモノの袖丈が短くて、自分の寸法に合わないなどという話を聞くことがあるが、そもそも昔の人は今の人に比べて身長が低かったので、それに合わせて袖丈も短くなっているのだ。ただ短いと言っても、1尺2寸(稀に1尺1寸5分)程度で、標準に1寸ほど足りないだけである。

これらを勘案すると、袖丈の縫い込みは2寸ほどあれば、ほぼどんな場合にも対応することが出来よう。特にカジュアルモノならば、1尺5寸を越えるような袖丈にはならない(ほぼ1尺4寸までだろう)。問題は縫い込みがあるかどうかということだけで、袖丈の場合、入ってさえいれば思い通りの長さにすることが出来よう。

 

袖丈の直し方は、袖先を解き、元の縫い目をスジ消しで消す。この作業をしないで単純に寸法だけを長くすると、元の縫い目がそのまま表に出て来てしまう。少々面倒でも、スジ消しをすれば、見た目もきれいですっきりとした仕上がりになる。

なお、身丈直しに比べてトキをする部分も少なく、仕立職人の手間もあまりかからないので、直し代は安くあがる。

 

最後に、裄を長くする、縫い込みについて。

キモノの袖付の左右・肩側と袖側を写したところ(縫い込み 肩1寸5分・袖1寸 合計2寸5分)

裄直しの時に問題になるのが、袖付の左右に入れられた縫い込みである。上の画像の裄寸法は1尺6寸5分。これは、昔の並寸法であり、このように短い人は今ではめずらしい。

縫い込みには、それぞれの反物巾と使う人の裄寸法の違いにより、大きな差が生まれる。例に挙げた品物は、たまたま短い裄だったので、多くの縫い込みが生じた。(この反物巾は、約1尺。この方の肩巾8寸・袖巾8寸5分=裄1尺6寸5分なので、肩側に1寸5分・袖側に1寸程度の縫い込みが生まれた)

この部分は、反巾がそのまま反映される。裄が短いからといって裁ち切られてしまうようなことはない。上の例のように、残った部分はそっくり中に入れられるのだ。その上、現在の反物の巾が昔のものより、かなり大きくなってるので、裄が短い方のキモノには、より長く縫い込みが入ってしまう。

 

問題は、より長くなっている現代人の裄に、どのように対応するかということだ。最近の仕立においては、裄寸法が1尺8寸などということもめずらしくない。しかし、昔の反物巾は、これほど長い裄には対応した大きさにはなっていないので、縫い込み部分を出しただけでは足りなくなる。

つまり、想定外の裄の長さということになる。寸法直しの中で、一番思い通りの寸法にならないのが、裄直しなのだ。生地が足りないというのは、どうにもならないことである。

私の経験では、1尺7寸5分(昔の男性裄の並寸法)までなら、ある程度どのようなキモノでも出すことが出来る。裏を返せば、昔の女性の裄寸法の限界がこの寸法だったということだ。まさか、これより長く裄を必要とすることが当たり前のようになるとは、考えられなかったのだ。

今から20年ほど前の、平成になってから作られた品物では、現代女性の裄に対応した反物巾になっている品物が多いが、それ以前のモノ、例えばお母さんが若かりし頃使ったものを、娘さんに譲ろうとするような時には、足りなくなるケースを多く見かける。

これは縫い込みの有無ではなく、反物巾そのものの問題ということが言えよう。そして、いつ頃作られた品物なのかということでも、ある程度裄が出せるかどうかを類推することが出来よう。古い品物なら、裄の長さの限界が狭まっていると考えておいた方が良いかも知れない。

 

では最後に裄の直し方をについて。まず、袖付部分を解き、縫い込みがどのくらいあるか確認する。ここも、手で触れればある程度はわかるが、裄の場合には、袖付を境にして、肩側と袖側の両方に縫い込みが入っており、出せる寸法の限界がどれくらいなのか、見ておく必要がある。

実際の直しは、解いたら元の縫い目をスジ消しで消す。袖丈直しと同様で、そのまま縫ってしまったら、スジが表に出てきてしまうからだ。そして、直す寸法に応じて、肩・袖両側の縫い込みを表に出していく。もし寸法通りにならない場合は、入っているだけの縫い込みを全部出すことで、我慢して頂かなければならない。

 

キモノの寸法直し、といっても品物の状態は千差万別。それぞれ縫い込みの程度も違い、元の反物巾も異なる。もちろん直して使う方の寸法により、思い通りに直せるものと、そうでないものが出て来てしまう。

お客様が直しを考える時には、まず縫い込みの有無、そしてどの程度入っているのかを確認されると良いと思う。それにより、どれくらいの大きさまで直せるか予想が付く。つまり寸法の限界を知ることが出来るのだ。

もし自分でわからなければ、呉服屋に相談すれば済む。寸法直しを依頼する時は、直すキモノを持参して、話をされれば良いと思う。普通の呉服屋ならば、キモノの状態を見れば、どのくらいの寸法まで直せるものか判断が付く。もし、それが出来ないような店なら、それはかなり怪しい店と見て間違いない。また、直しに法外な値段を請求するような店も同様だ。袖丈・裄直しならスジ消しを含めても6、7千円まで、身丈直しでも1万円までと私は思っている。

 

 

このブログを製作した「ひでじま」という会社ですが、以前は印刷関係の業務を主にしていたのですが、時代の変化に伴い、業態も変化してきたようです。

現在は、製薬メーカーの業務に関わる仕事が多く、MRの業務研修から販促、さらに医薬品に添付されている文書の作成、さらに研修会などの文書や抄録の作成などを請け負っているようです。

つまりこのブログは、薬屋=草かんむりの仕事がほとんどで、呉服屋=糸へんとは、縁も所縁もない会社で作られたものということになります。

 

ひでじまを紹介したのは、家内の父。印刷技術に関わる仕事に長く携わってきた人で、85歳になった今でも、業界の集まりに顔を出したり、たまに講演会で講師をしたりと、恐るべきおじいちゃんなのです。またパソコンの知識たるや、私など到底足元にも及ばず、私の娘たち(つまり孫)が大学で使うパソコンの設定など、すべておじいちゃんがしてしまいました。

ひでじまという会社の業態をよくわかっていた義父が、ここなら私が思い描くようなブログが作れるだろうと考えたのでしょう。

実際にデザインしたのは、サノくんというまだ30代と思われる男性。ブログトップの写真(由水十久の模様や紫紘の帯柄)はミツウチくんという普段は薬品関連のプロカメラマン。さらに企画はニシグロくん、メンテナンスはタハラくんという、いずれも呉服屋とは関わりのない若い人により、このページが維持されています。

呉服というものを知らない、まったく畑違いの人が作ったものだからこそ、面白いデザインになったのであり、センスの良さが光ります。この場を借りて、彼等に感謝したいと思います。

今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

ご感想・ご要望はこちらから e-mail : matsuki-gofuku@mx6.nns.ne.jp

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