バイク呉服屋の忙しい日々

職人の仕事場から

和裁職人 中村さん(4) 白生地から作る八千代掛け

2015.02 03

普通、節分豆まきでは、鬼は外・福は内である。冬から春へと変わる季節の節目(季節を分ける=節分)には、鬼が住んでいるとされ、その邪気を祓うための年中行事である。

家族で豆まきをする時など、鬼のお面を被った父親に向かい、豆を投げつける。当然鬼は悪者という前提なので鬼は外だが、寺社の中には、鬼は内、福も内、と掛け声をかけて豆をまくところがある。

これは、鬼を神と考えているからだ。鬼神は、亡くなった人の魂が宿るもの、あるいは天地万物の行いを司るもの。とすれば、尊ぶべきものであり、決して外に出してはならず、むしろ内へ呼び込むべきものなのだ。

戦前、政府から大弾圧を受けた大本教(おおもときょう)などは、鬼神そのものを国の基の神(国常立尊)としていた。京都・綾部の霊能者だった出口なおに鬼神・艮(うしとら)の金神(こんじん)が宿り、自らを神として、革命的な国の立て直しを説いた。

なおの娘・スミと結婚した出口王仁三郎(おにさぶろう)により教団は大きく発展したが、過激な世直し理論の拡大をおそれた当局により、徹底的に弾圧を受ける(1921・大正10年と1935・昭和10年)。鬼神のお告げのまま、世直しが出来るとは常識では考えられないが、多くの信者を獲得していたということは、当時それだけ閉塞感の強い世の中だったということになるだろう。

大本教の例に洩れず、戦前は治安維持法や不敬罪などにより、言論、思想、信教の自由が厳しく統制されていて、それが国民を同じ方向へと進ませる大きな要因の一つとなっていた。昨年制定された特定秘密保護法が、これと同じ轍を踏む第一歩とならぬように、願うばかりである。

 

節分から、最後は特定秘密保護法になってしまい、相変わらず訳の判らない前置きが長くて申し訳ない。今日のテーマはお宮参りの産着・八千代掛けのお話。

 

(紋綸子白生地 菱に向い鶴文様・女児用八千代掛け)

最近使われる初宮参りのキモノのほとんどは、柄付けされている。今までこのブログで紹介した八千代掛けも、小紋を使って仕立をしたものである。(昨年1・14と22日の稿をご参考にされたい)

ひと昔前は男女ともに白生地を使うことが多かった。白は生まれたばかりの赤ちゃんに相応しい無垢の色。心身ともに、どんな色にも染まっていない身に掛けるものと考えれば、白以外にはないだろう。

上の品物には付いていないが、家紋を施す場合がある。特に男の子の場合は紋を入れるのが一般的である。紋は外すことが出来るように、染め抜き紋ではなく、切り付け紋で入れられる。

 

紋綸子白生地 左から菱に向い鶴・花の丸・紗綾(さや)型・小菊に紗綾型

白ひと色の八千代掛けを作るということは、どんな白生地を使うかということである。生地の質や織り出されている柄は様々なものがある。

上の画像は、紋綸子生地。綸子(りんず)の特徴は、撚りのない糸で織り上げられるために、滑るように滑らかで、光沢があるもの。経糸を浮かせて織り、緯糸で模様(地紋)が付けられて織り出されているものを紋綸子と言う。

先日、黒紋付の話をした際に少し触れたが、このような光る生地は、喪服や黒留袖、黒紋付などには使わない。紋綸子生地の用途は、嵩の重いものは振袖や訪問着、付下げなどに使い、軽いものは長襦袢で使われる。また、花嫁衣装の白無垢のほとんどが、紋綸子である。

紗綾型・紋綸子白生地

菱に向い鶴・紋綸子白生地

花の丸・紋綸子白生地

 

一方、撚り糸を使った、一越縮緬(ちりめん)や鬼しぼ縮緬などの白生地を使う場合もある。少し重量感があり、しっとりとした仕上がりになる。

一越ちりめん白生地 三反では、シボの出方が微妙に違っている。

一越ちりめんは、経糸に撚りのない糸を使い、緯糸に2000~3500回撚られた糸が使われている。緯糸には、右に撚られた糸と左に撚られた糸を1度ずつ交互に打ち込まれる。一越とは緯糸の段数が一段ということから付いたもので、この緯糸にどんな強撚糸を使うかで、シボの出方が変わる。

シボの出方が違う一越ちりめん。撚り方の強い緯糸を使っている方が、シボが大きくなる。この画像では少しわかりにくいので、下に比較したものを出しておこう。

左の生地の方が平らで、右の方が少し凹凸があるのがわかると思う。

白生地で八千代掛けを作る場合、綸子でもちりめんでもどちらでも良い。しっとりとした風合いのちりめんか、華やかな光沢のある紋綸子か、お好み次第ということになる。

 

先日の黒紋付の稿の中で、生地の目方について少し触れた。白生地には、その目方について、標記がされている。

上の画像の一番右の赤い丸の判を見て頂きたい。等級と重め(量目)、長さが記されている。

上の生地と下の生地の違いは、量目にある。上は730g、下は770g。

白生地の目方を表す単位は「貫(かん)」と「匁(もんめ)」。1貫=3750g 1匁=3.75gである。その目方は10反を一単位と考えて使われている。

これに従い、貫6と呼ばれている生地を考えてみよう。この生地は、10反で1貫600匁の生糸が使われている。グラム単位で計算すると、3750g+2250g=6000g。これを1反で計算すれば600gということになる。この数字が、生地表記の貫目ということになる。

上の画像でとりあげた品で考えると、量目730gは2貫弱、770gは2貫強の目方の生地と判る。2貫は7500g、その十分の一は750gだからだ。

現在使われている生地の目方は、700グラム以上のものがほとんど。生地の重さは、一越か紋綸子かといった織られ方によって、感じ方が違う。

 

さて、白生地の話が長くなってしまった。肝心の八千代掛けに話を戻そう。お客様が、少し光沢のある生地を希望されたので、紋綸子の生地から選んで頂くことにした。

生地の地紋がわかりにくいので、帽子の部分を拡大してみた。ご覧のように選ばれたのは、菱の中に鶴が向き合う文様が連続している生地である。上品な中にもすこし格調高い文様。上の画像でも、光沢のある紋綸子の特徴がよくわかると思う。

女の子なので、袖口と振りの所に朱色の絹地をとってアクセントを付ける。紐も白と赤一本ずつ組み合わせてみた。

お客様の話では、将来この白生地を使い、色無地か小紋を作りたいという。娘の宮参りの八千代掛けが、母のキモノになる。鋏を入れずに仕立てられているので、応用は利く。男の子用の紋が入ってるものでも、切り付け紋ならば外すことが出来るので、同様の使い方が出来る。

 

今日は友引、日柄が良いということもあり、今朝お祖母さんが品物を取りに来られた。仕上がった白無垢の八千代掛けを見て、嬉しそうだった。少し暖かくなった3月にお宮参りをするとのこと、健やかに成長することを祈りたい。

最後に、全体像をもう一度どうぞ。

 

我が家でも、娘が小さい頃は毎年節分の豆まきをしていました。鬼の役はもちろん私。お面を被って娘達の前へ現れます。家内は、「お面を被らなくてもあなたは十分怖い」などと失礼極まりないことを言います。

そして、「泣く子はいねぇが~」と秋田のなまはげ風に娘を追い掛け回します。3姉妹の中で、上と下の子は、敢然と私に向かって豆を投げつけます。真ん中の子はただ泣いてばかり。その子はかなり大きくなるまで、鬼のお面を見ると条件反射のように泣いていました。

不思議なことに、その泣き虫の子が、今では一番のしっかり者です。子どもの性格とはわからないものですね。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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