バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

11月のコーディネート 「枯葉色」は晩秋の色

2014.11 28

神宮外苑の「銀杏並木」がすっかり色づいたようだ。暖かい東京都心では、毎年11月末から12月初めにかけてが見頃となる。

300メートルほど続く並木が黄色ひと色に染まり、そこを歩けば、さながら「黄金トンネル」をくぐるような感じになる。都心で「深まる秋」を感じさせてくれる数少ない場所の一つだろう。

「色付いた葉」を愛でるのも良いが、もう少し季節が進み、木々から落ちて、道を埋め尽くすさまも、また違った趣がある。葉の色は鮮やかな色から少しくすんでしまうが、その上を歩くと「かさかさ」と音がする。冬を告げる北風が吹けば舞い上がり、散々に飛ばされていく。

 

季節のうつろいを表すものに「二十四節気」があるが、これをさらに細分化して、一つの節気を5日ずつ分けた「七十二候」というものがある。元々は中国で考えられた季節表現なので、そのまま使うと日本の気候にはそぐわないものがあった。

江戸時代の天文学者だった渋川春海(しぶかわしゅんかい)は、この「中国風七十二候」を、日本の気象に合ったものに改めようとして、「本朝七十二候」を作った。今、使われている「七十二候」は、この時のものだ。

渋川春海(1639~1715)という人物は、もともと囲碁棋士だったのだが、のちに算術や暦法、神道などを学び、「貞享暦」という日本で初めて編纂された暦を作ったり、幕府の「天文方」に任命されたりと、多彩な才能を誇った。

 

さて、今は二十四節気の「小雪(11月22日)」と「大雪(12月7日)」の間ということになる。この15日間を、5日ずつ三区分する「七十二候」に当てはめてみよう。

11月22日~26日は、「虹蔵不見」。虹を見ることが出来なくなる頃とされている。27日~12月1日は、「朔風払葉」。北風が木の葉を払いのける頃。今日は28日なので、「枯葉」となって地に落ちる季節になったということだ。ちなみに三区分の最後の12月2日~6日は、「橘始変」で、橘の葉が黄色く色づく頃。そして12月7日は「大雪」を迎える。

 

ということで、今月のコーディネートは、「朔風払葉」にふさわしい「晩秋の色」をテーマにして、組み合わせた品物を、ご紹介してみたい。

 

(朽葉色 段ぼかし紬小紋・黄橡色 南風原花織八寸名古屋帯)

10月のコーディネートでは、「フォーマルモノ」の「濃淡合わせ」をご紹介したが、今日の「カジュアルモノ」でも「同系色」のキモノと帯を使ってみた。キモノは「朽葉色(くちばいろ)」のぼかしで、帯地色は「黄橡色(きつるばみいろ)」。いずれも「黄系色」の取り合わせ。

 

(朽葉色と浅紫色 横段ぼかし 紬小紋・松寿苑)

紬地の白生地を使い、「朽葉色」と薄い「浅紫色」をぼかしながら交互に染め、手で「霞」のような筋を不均等に入れたもの。一見、単純なように見える品物だが、ぼかしに使われる色の組み合わせや、「霞」の配置が難しい。上の画像では、全体像がわかりにくいので、反物を広げて繋いだところをお目にかけよう。

通常の、上前見頃とおくみや背の合わせでは、上の画像のように、同じ色が重ならないように仕立てる。「朽葉色」と「浅紫色」を交互にして、「市松文様」のような感じにする。

ただ、使う人により、あまり「規則的」な模様付けを好まない方もあるので、二つの色を「微妙」にずらす合わせ方もある。どのような配置になるか、下の画像でお目にかける。

最初の合わせのように、色をはっきりと交互につけていない。自然なぼかしをキモノ全体に印象付ける合わせ方。

このような模様付けのものは、柄合わせ次第で、全体の雰囲気が変わり、どのように工夫して着る方にふさわしい模様とするか、その腕が試される。呉服屋と仕立て職人泣かせの品と言えよう。

 

「朽葉色」を見て頂くとわかるが、「黄色」の上に少しだけ「茶」を混ぜたような感じになっている。これは黄色く色づいた葉が、季節が進んで、わずかに赤茶色に変化したことを表現したもの。つまりは、枝から地に落ちる直前の「枯葉」になりかかっている色ということになる。

この秋色と組み合わせているのが、寒色系の「浅紫」なのだが、できるだけ主張を抑えた淡色なので、前面に出過ぎず、「朽葉」を引き立たせている。柄全体の配色率は、朽葉色2に対して浅紫1の割合にされている。

もう一つ、この品物のアクセントになっているのが、不均等に手で引かれた「横の筋」。人の手によるものなので、「筋」の長短や濃淡は様々であるが、ぼかされた色の上に「控えめに」施されることにより、平板さを打ち消している。この技術は、「シケ引き」を思い起こさせるものだ。もしこの「柄」がなければ、この品物の印象は「のっぺり」としたような、単純なものにしかならないだろう。

凡庸に見えても、色出しや柄付けに、作る人のセンスが問われる品物であり、大変難しいものと言えよう。

 

(黄橡色 南風原花織 紬八寸名古屋帯 大城廣四郎織物工場)

「琉球絣」の主産地である「南風原(はえばる)」で織られている「花織」。大城廣四郎氏は、戦後いち早く沖縄独特の平織り絣、琉球絣を復興させた第一人者である。戦前からの琉球絣の主産地、「南風原」に工房を持ち、2003(平成15)年、没後は、子息の一夫氏が跡を継いでいる。

画像で判るように、生地から浮き上がるように模様が織り出されており、刺繍を施したようにも見える。この技法を「浮織」と呼ぶ。これは織機の中で、経糸を引き上げる役割を果たしている「綜絖(そうこう)」という装置に、別の糸を通しながら織り出すことによって、「浮くような模様」を表現することができる。

沖縄の「花織(はなうぃ)」の代表的なものは、「読谷(よみたん)花織」と、「首里(しゅり)花織」であるが、今日の「南風原花織」は「読谷」と同じ技法で織られているもの。

沖縄独特の「花織」の特徴は、模様を表現する糸、つまり綜絖に通される色糸が、草木で染め出されていることである。この帯にも、「カテキュー」と「福木」が使われていることが明記されている。

「カテキュー」は、熱帯に自生した、タンニンを含む喬木の幹などから抽出された液体で、茶褐色をしている。帯を見ると、地色糸がこれで染められていると思われる。

「福木」というのは、高さが20mにもなる高木で、非常に強い性質を持つ。そのため、「防風」のために海沿いに植えられたり、街路樹としてもよく見かける。この樹皮からは、「鮮やかな黄色」の染料を採ることが出来る。「紅型」に使われる沖縄独特の、「目の覚めるような黄色」は、この「福木」から採られていることが多い。帯柄の中の「黄色」部分で、使われている。

この帯には、天然染料だけでなく、化学染料を使った記載もあるが、紫や臙脂色の部分がそれに当たるのではないだろうか。

地色の「黄橡(きつるばみ)」は、ブナ科の樫や楢の木の実である「どんぐり」から抽出された液体で染めると、このような色が出る。まさに「晩秋の色」にふさわしい色である。

 

キモノは柔らかい色で、「ぼかし」が効果的に使われているため、やさしい印象となる。ここに、あまり強い色の帯を合わせると、キモノに表現されている雰囲気が消されてしまうような気がする。例えば、黒とか濃い臙脂色などでは、帯だけが目立ってしまうだろう。

同系色を使う場合でも、帯の地色を少し「沈ませる」方が無難である。この「朽葉色」より濃い茶系の色だと、全体が「優しく」ならない。特に今日のテーマは、「晩秋」をイメージしているので、着姿を「落ち着かせる」必要があった。

 

帯〆と帯揚げの色は、花織の糸の色を使って合わせてみた。帯〆は「福木」から染め出されたような鮮やかな黄色。帯揚げも柄に入っている若草色のぼかし。       (ゆるぎ帯〆 野沢組紐舗・ぼかし帯揚げ 加藤萬)

 

最後に、全体の合わせをどうぞ。

帯揚げは、薄いクリームと若草のぼかしになっているので、目立たせたくない時は、「クリーム側」を表に出すようにする。今日は「晩秋」というコンセプトのもとで、品物を選びコーディネートしてみたが、如何だっただろう。季節を感じさせる色で着姿を表現するのは、やはり難しかった。

どんな色を使い、帯合わせや小物合わせをするのか、ということは人それぞれに違うだろう。そもそも「晩秋をイメージする色」そのものが、人によって違う。カジュアルの着姿は、着る人の感性でコーディネートすればよいので、思い思いの色を使い、「旬」を大いに楽しんで頂きたいと思う。

 

地球温暖化の影響でしょうか、葉の色付きが年々遅くなっているようです。春の「桜前線」、秋の「紅葉前線」は、地域ごとに「季節のうつろい」を感じさせてくれる「標」のようなものでありましょう。

木枯らしが吹き、道に枯葉が降り積もれば、もう年の暮れですね。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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