バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

「裄」の寸法をどう考えるか(1) 「反物巾」との関係

2014.02 11

「寸法直し」の仕事でもっとも多いのが、「裄直し」と「袖丈直し」である。母や祖母のキモノを直して使おうとする場合、まず問題になるのが「裄」だ。

「袖付け」部分を解いて、余り生地の縫いこみがあるかどうか確認しても、使おうとしている方の「寸法通り」に直せるような「余り」が入っていないことが多い。キモノの寸法において、現代女性と一、二世代前の方々とで、もっとも変化した寸法部分が「裄」である。

では、なぜ「裄」が出せないのか、また「縫込み」が少ないのか、なのだが、これが今日のテーマ「反物の巾」の違いということに関ってくる。以前このブログの中で、「裄直し」についてお話させて頂いたことがあった。今日の話で、重複する内容があるかも知れないが、ご容赦いただきたい。

 

最近、街の横断歩道で信号待ちをしていると、横に並んでいる女性の身長が、私より高いことがある。私は176cmなので、背は低くくない。しかし、その女性がハイヒールを履いていたとしても、170cm以上はある。

昔は、私より大きい女性に出くわすことなど、ほとんどなかった。だが、今はめずらしいことではなく、170cmを越える女性が世の中に増えている。

 

先日、このブログを読んで頂いているという県外の方から、お電話でご質問があった。その内容は、近くの呉服店で誂たキモノの「裄丈」が自分の寸法に合わず、直すことも出来ない、どうしたらよいかということである。

その方の身長は171cm、「裄丈」は73cm(1尺9寸3分)。反物の巾「いっぱい」に出しても70cm(1尺8寸5分)にしかならなかったと言う。

キモノの「裄丈」がどれだけ長く出せるか、ということは「反物の巾」がどのくらいあるかということで決まる。このことは「呉服屋の常識」として、わかっていなければいけないことだ。背が高く、「裄」の長い女性ならば、当然そのことを考慮に入れて、品物を見せなければならない。もし、反巾の短いものを売ってしまえば、いかようにしても、裄の寸法は取れない。仕立ててしまったら最後だ。

お電話の方には、残念ながらこう伝えるよりなかった。

 

今日から二回にわたり、この「裄丈」と「反物の巾」の関係をお話するだけでなく、そもそも「裄」の寸法をどのように考えればよいのか、ということまで戻って、話を進めて行くことにしよう。まず、今日は「反巾」と「裄」に絞って考えてみたい。

 

「裄の丈」というのは、「肩巾」と「袖巾」を足したものである。この裄丈の最大寸法は、「反物の巾」により変わってくる。

まず、単純に反物によりどのくらい巾の違いがあるのか、品物を使って見てみよう。最初は「男物」と「女物」の反巾差である。上の画像の二反、右側グレイ色の紬無地モノは男物、左側紺系無地モノは女物だ。

巾の差を測ってみよう。男物無地の反巾は、1尺7分。女物無地の反巾は、9寸9分。両方の反物の耳を揃え、「尺メジャー」を使った。差は8分である。

では、この二反の「裄の最大値」を考えてみる。裄が肩巾と袖巾という二つの部位を足したものであるから、肩巾も袖巾もそれぞれ反物の巾いっぱいに使うことが出来る。

上の「男物無地」なら、「袖巾=1尺7分」+「肩巾=1尺7分」=裄の最大値(2尺1寸4分)なのだが、キモノを仕立てる時には、「縫込み」というものが必要である。だから、その「縫込み」分を差し引いて最大値を考えなければならない。

仕立職人の保坂さんに、「縫込み」にどれくらい必要か、聞いてみた。おおよそ、2分5厘から3分になると言う。つまり「袖巾」と「肩巾」の二ヶ所で縫込みが必要なので、2,5分~3分×2=5分~6分ということになる。

これで、反物の「裄丈の最大値」を割り出す式は、「反巾×2-5~6分」である。上の品でこの式を当てはめると次のようになる。

男物 1尺7分×2-6分=2尺8分(79cm)。

女物 9寸9分×2-6分=1尺9寸2分(72cm)。                                                             

つまり、この最大値以上「裄」が必要な方には、上の反物は使えないということになるのだ。

 

最初の示した品は、男物、女物と分けて考えた反物だが、女物でも、その「反物巾」はまちまちである。

二反の紬地。短い上の品の反巾は1尺(裄の最大値は1尺9寸4分・73cm)。長い下の反巾は1尺4分(最大値は2尺2分・76cm)

上の例は付下げ。短いベージュ地の反巾は9寸6分(裄の最大値は1尺8寸6分・70cm)。長いブルー地の反巾は1尺(最大値は1尺9寸4分・73cm)

 

「裄」の寸法が、反物の巾によりある程度の「制限」があるということがわかっていただけたかと思う。このことを考えると、昔のキモノの「裄直し」がなぜ難しいのか、その原因が見えてくる。

それは、女性の標準的な「裄」の寸法と関係している。平均身長が152cmの頃(1950年代)の裄丈は1尺6寸5分・63cmである。これが、呉服屋の基準としての「並寸法(標準寸法)」になっていた。

では、先ほどの「裄寸法」の換算方法に従い、「反巾」を割り出してみよう。1尺6寸5分の裄に必要な反巾は、8寸6分から7分である。

昔の女性で、1尺7寸5分(67cm)以上の長さの「裄丈」が必要な方は稀であった。これは、当時「男性」の並寸法でもある。1尺7寸5分を反巾換算すれば、9寸だ。

という訳で、この「9寸」というのが、一応反物の巾の基準になっていたのだ。だから、母や祖母の時代のキモノの反巾は、9寸からせいぜい9寸2,3分(裄の最大値は1尺7寸7分・67cm)になっていて、このことが、今の「裄直し」を難しくさせている。

キモノを仕立てる時、たとえ裄の寸法が短くても、反物を切り落とすことなどしない。生地が余れば、全部袖付けのところに入れておく。だから、「余り生地」が入っていない場合は、もともと「反物の巾」が狭いものだったと考える他ないのだ。

先日の長襦袢のように、生地が足りないからといって、「ハギ」を入れて大きくする訳にも行かず、出来ることと言えば、できる限りその生地いっぱいの長さにする以外にない。直した後、それが着る方の寸法に合っていなくても、やむを得ないことになる。

 

上の例に挙げた品物を見ていただければわかるように、今の反物の巾は昔よりかなり長くなっている。昔の反巾が9寸なら、それより1寸も長い1尺の品物も多く、短いものでも、9寸5分はある。

うちのお客様の裄の寸法を考えても、昔の並寸法・1尺6寸5分という方はほとんどいない。1尺7寸5分は普通であり、1尺8寸5分以上の方もいる。この現代人の裄丈に合わせて、「必然的」に反物の巾も広くならざるを得なかったのだ。

 

電話をいただいたお客様のように170cmを越える身長で、裄丈が1尺9寸3分(73cm)ならば、どんな品物でも、その反巾は最低「1尺」が必要である。このブログを読んでくださる方で、ご自分は「裄が長い」という方は、ぜひ「反物の巾」ということにも注意して、品物をお選び頂きたいと思う。

 

さて、今日は、「裄」と「反物の巾」の関係について、話してきたが、現代のキモノの「裄」が長くなった原因は、「体格」が大きくなったことばかりではない。

「裄」という寸法の捉え方の変化にも大きな要因がある。それは「洋服」の影響により、「裄」の長さをどこまでとするかだったり、「普段着」として使わなくなったことで、キモノを着て動く必要がなり、その機能性において「裄丈」が変わっていったことなどである。

次回は、着る方にとって、本当に自分に適した「裄丈」とはどのくらいの長さか、ということに主題を置きながら、「裄の寸法」というものを通して、和服の「変遷」を考えてみたい。

 

お相撲さんが、十両以上の「関取」になれば、公式の場に出るときには、「黒紋付の羽織・袴」を着用しなければなりません。

例えば、身長190cm、体重150㎏もある人の、「裄丈」はどのくらいなのでしょうか。「お相撲さん」の使うキモノは、当然「別織」されています。反物の巾も使う関取の体型(裄寸法)に合わせなければなりません。つまり反物自体が「オーダーメイド」であり、一人一人の力士に合わせた生地が使われるのです。だからとても「贅沢なもの」と言えましょう。

「裄丈」の変化を見ると、体型の変化ばかりでなく、現代におけるキモノの立ち位置というものも見えてきます。その辺りのことも含めて、次回お話させて頂きたいと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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