バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

黒紋付羽織を再生する(男物編)

2013.11 08

キモノや帯のほとんどは、寸法直しや補正により再生できることを、このブログでも何回か具体的に例をあげてとりあげてきた。

だが、現代ではほとんど使わなくなってしまったモノもある。それをどのように生かすか考えなければならないのも呉服屋の仕事である。

「生地」自体が質の良いものを使っているのならば、「何か別のモノにして」日の目を見せてあげなければ「勿体無い」。それが、「思い出の品」だったり、「懐かしい故人」が使っていたものだったならば、なおさら「何とかしたい」と思う。

もちろん、これから「使っていただけるような」モノにしなければ、何の意味もない。お客様に「直してよかった」と思ってもらえる事にならなければ、「良い仕事」とは言えないし、その「直し代」が高く付いてはいけないという条件も付く。

今日は、そんな「再生」された品物の話をしてみよう。

 

「黒紋付羽織」というものは、男物でも女物でも、今ではほとんど着用の機会が失われている。この品は「紋付」であるから、「礼装用」に使われるもの、それも「第一礼装」である。

今は、そもそも「羽織」自体着ることが少なくなっている(紬や小紋に合わせて使う、カジュアル感覚の丈の長い羽織の需要は少しあるが)。「嫁入り支度」として「箪笥にキモノを詰めて」嫁いでこられた方(60歳前後から上の世代)には、羽織が沢山眠っていることであろう。

昔、キモノには「羽織」は「付き物」であった。特に「黒紋付の羽織」は、「喪用」に使うものであり、ある程度「必需」なものと考えられていた。また、「入学式、卒業式」には「無地の紋付」に「黒の絵羽織」を着ることが、「昭和40年代の母親」の「定番」ともいえる姿だった。

この「使うあて」のなくなった「羽織」をどうするのか、という相談をよく受ける。「羽織を羽織として使う」のではなく、「何か別のモノ」に直らないかということだ。さて、どのような「再生」をしたのか見て頂くことにしよう。今日はまず、「男物・黒紋付羽織」編。

 

(男物作務衣上着 男物黒紋付羽織の再生)

画像上「丈が長く見える」かも知れないが、「作務衣」の上着である。丈は2尺5寸なので(これを着る方は175cm)、裾は腰より少し下あたりの長さ。

この男物黒紋付羽織はかなり古いものであった。依頼された方(70代)の「父か祖父」が使っていたものだという。どちらにしても、「戦前」の品だ。昭和初期では、「男の第一礼装」は「黒紋付の羽織、袴姿」である。だから、このお宅のように、「何世代もの(この家では三世代分)」男物の紋付が残されている家がある。

しかしながら、今となっては、「箪笥に残る遺産」でしかない。もちろんこのまま「キモノ・羽織」として使うことはできるのだが、これを「着るような機会」はないという。そして、「このまま箪笥に寝かしておいても、どうにもならない」という話の中で、何とか「再利用」することを考えて作ったのが、この「作務衣の上着」である。

この依頼された方の趣味は「家庭菜園」や「庭仕事」なので、寒くなると上に「引っ掛ける」ようなものが欲しいという。ただ、「重い生地」は体に負担がかかるので、嫌ということだ。そこで、思いついたのが、「古い羽織」を使った「上っ張り(うわっぱり)」。

この「羽織」の生地は、60年以上前のものとしては、とてもしっかりした品だ。聞けば「内織り」をしたものだという。昔、「養蚕農家」ではどの家でも「内織り」をした。自分で取った繭の糸を紡いで織り、「白生地」を作る。それを「黒」に染めて、「紋付」にしたのだ。

「第一礼装」が「作務衣」になる。でも、生地は軽いし、「絹」なので暖かい。「黒」だから汚れも目立たない。使う方の希望に適うものになるし、考えてみればとても「贅沢」な生地の「上っ張り」であり、なおかつ「眠っていた品の再生」にも役に立つ。

この提案を受け入れていただき、作ることになった。丈は「羽織丈」をそのまま生かし、袖は作業がしやすいように「つつ袖」にする。通常の袖の形だと「振り」の部分の袖先が、引っかかりやすく邪魔になるからだ。後は、「紐」で簡単に結んで、着やすく、また脱ぎやすくする。また、軽く着てもらうために「裏を付けない」でおく。

作務衣の背の内側、最初の画像で「白く」写っているところを拡大したのが、上の画像。「黒紋付羽織」だったことの証を入れようと思い、仕立て職人の工夫で、「着たときには見えない」この位置になった。

前の羽織は「丸に剣片喰(けんかたばみ)」の紋が付いていたことがわかる。こんな「ちょっとしたこと」を仕事に施すだけで、依頼した方に喜んでいただける。「思い出の品」を再生する時の楽しみでもある。

 

このような再生は、「羽織を道行コート・道中着」に直すことの応用である。キモノや羽織ならこのような直し方が出来るのだが、衿の形の関係などから、この逆の「コート類を羽織やキモノ」に直すことは難しい。

さすがに「作務衣のズボン」まで作ることは出来ないが、「日常」に使えるモノとして、再生できた。

 

実はこの方、二回目の依頼である。これは、「息子さん」用の寸法のもの。最初に作った「おやじさんの作務着」を見た息子さんが、ぜひ同じものをということで、再び仕事を受けた。やはり、「着てみた」ところ、「軽くて暖かく、使いやすい」そうである。何と言っても元は「男の第一礼装」に使われていた品であり、寸法も「着る方に合わせて」作り、手をかけた「贅沢」なものである。

 

「呉服屋の工夫」というものは、それまでに自分がどのような「直し」や「再生」を請け負ってきたかで、「提案の仕方」が変わります。このような仕事は「職人さん達」の協力が不可欠であり、その技術によって成り立っているのです。

「新しい品物」を仕立てるだけではなく、「生地を生かす」という発想のもと、様々な工夫をして「品物を再生」することができる智恵を持っている職人さんは、とても貴重な存在です。

新しい発想は、新しい工夫により生まれ、それにより「呉服」という品物が形を変えて長く使われ続けることができれば、こんな仕事こそ「呉服屋冥利に尽きる」ものと言えるのではないでしょうか。次回のこのカテゴリーでは、今日の続きとして「女物の黒紋付羽織の再生」を書く予定です。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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