バイク呉服屋の忙しい日々

ノスタルジア

品川恭子 『花の譜』 鬼ちりめん黒地花寄せ模様振袖

2013.09 08

自分で選び、買い入れた品物は、「娘」のようなものだ。その中で、お客様に選んでもらえず、長く店に残る品は、「お嫁に行けない娘」のような気がする。

施された仕事も丁寧であり、柄行きのセンスもあるのに「残る品」は、さしづめ、「器量がよく気立てもよいのに嫁に行けない娘」ということになる。

先日、一枚の振袖が「お嫁にゆく」ことになった。売れなければ困るが、いざ売れてしまうと、いかにも「惜しい」。まさに、「娘の結婚を複雑な気持ちで見送る父親の心境」のようである。

この「惜しい」品は、品川恭子という京友禅作家の作品である。作られる数は限りがあり、これから先、当店がこの方の「振袖」を扱うことができるかどうかわからない。そんな意味で、この「ノスタルジア」の稿で取り上げることにした。

品川恭子さんの、その独特の図案や挿し色の素晴らしさと共に、「女性」ならではのやさしい視点や心の持ち様などが、その作品に映し出されていることを少しでも伝えられたらと思う。

 

(品川恭子 京友禅 鬼ちりめん黒地花寄せ模様振袖 2004年 売約済品)

当店が品川さんの作品を扱い始めてから、もう20年ほどになる。この方の品は京都の「松寿苑」というメーカー問屋が、一手に引き受けて扱っている。この会社、以前このブログで何度か紹介したことがある(別誂加賀のれんや織部佐藤和次さんの稿)が、会社といっても「家族経営」の「個人商店」である。

ここの社長、松本昭氏は、加賀友禅や辻が花、また工芸作家の品を扱っていた「吉田」という問屋から独立した人である。(この「吉田」という会社はすでにない)この吉田という会社は、「作家」の手による品、つまり個性的で、希少性のあるものばかりを「作家」本人に依頼し、扱っていたという業界でもめずらしい店であった。

松本氏は、「よい仕事」をする作家の作品を見極める目を、若い頃から養っていたため、独立後は、「いく人かの作家」に絞って「モノ作り」を依頼し、我々取引先に提案し続けてきた。それが、「品川恭子」であり、「北村武資」であり、「日本工芸会」に籍を置く作家達だった。

専門店が「個性的で確かな技を持つ作家の品」を扱うためには、それを「作家達に依頼し続けることのできるメーカー問屋」と取引があることが重要である。そうでなければ、その品を扱うことさえ(見ることすら)出来ないのだ。ここに、「専門店としての小売店」とそれ以外の「一般呉服店やナショナルチェーン」の違いがある。

専門店として大切なのは、取引相手が「何を扱う問屋」であるか、それが自分の店で扱うものとして「ふさわしい品」であるか、まずそこを見極めなければならないこと。そして、もちろん品物を「買い取る」ことにより、その作家の品を扱う「覚悟」をしなければならないのだ。それが出来なければ「他店と差別化」することは難しくなる。

松本氏の「松寿苑」が人を雇わず、家族経営に徹しているのは、「作家にモノづくりをしてもらうこと」が、経営の全ての中心であり、他のことに経費をかけず、品物を供給し続けることを大命題としていることによる。つまり会社を「規模より中身」が重要と考えているのだ。だからこそ、こんな「呉服業界、冬の時代」になっても、有能な作家の品を提案し続けられるのである。

話が少し逸れたが、(私の話は本題に行くまで長く、読んでいる方々にはいつも申し訳なく思う)この「品川恭子の振袖」を見ていくことにしよう。

 

(花散らしと呼ぶにふさわしい全体の図案、画像がよくないことをご勘弁願いたい)

(上前おくみ、身頃の柄行き 均等の大きさの小柄の文様と印象的な色挿し)

品川恭子(しながわ きょうこ)さんは1936(昭和11)年東京生まれ。染織作家としてはめずらしい東京芸術大学図案科(今の工芸科)の出身である。ほとんどの作家の方々は「大学」に行かず、職人の内弟子になることからスタートするのだが、この世界では「異色の経歴」といってもよいだろう。

品川さんが「友禅の世界」に足を踏み入れる契機になったのが、蒔絵友禅の人間国宝である森口華弘氏との出会いだったことは、よく知られている。大学でデザインを学んでいた品川さんは、4年生の春休みに森口氏の工房を訪ねる機会を得た。そこで森口氏の手による一つの作品に出会う。その品は、淡い臙脂色に藍色で描かれた梅林を描いた訪問着。「穏やかな春の情景が浮かぶようだった」と品川さんは語っている。

この品に出会えたことがすべてを変えた。当時品川さんは「キモノには無知で無関心だった」。けれども、「日本画とデザインを合致させた美しさ」に深く感銘を受け、「友禅の世界」に入ることを決意したのである。

森口華弘の描く友禅は、例えば「梅の花」ならば、写実的ではなく、自分の持つイメージを大切に生かした、森口氏ならではの「簡略でありながら、優しい印象の花」である。品川さんが感じた「日本的なものを独創的にデザインする」ということが、ここに表れていると言っていい。

品川さんは、森口氏に弟子入りをお願いする。しかし、森口氏はこう話したという。「あなたにはあなたの色がある。わたしの色に染まることはない。わからないことがあれば、何でも聞きなさい。」

 

(色づいた楓と梅鉢 上の方の楓の葉の輪郭がモダンに工夫されている)

(品川さん独特の雪輪模様 中は、業平菱が金で描かれている)

(愛らしい揚羽蝶 羽の挿し色の水色が斬新)

(桜の花びら二葉 紅色と鴇色の優しい濃淡の使い方が女性らしい)

上の四つの画像で、それぞれの挿し色や、図案を具体的に見て頂いた。柄行き全体を見ると、「吹き寄せ模様」のようなイメージなのだが、春は「桜」と「梅」、秋は「菊」と「楓」と「銀杏」が組み合わされ、「春秋模様」になっている。そして、その中に「波」や「雪輪」や「揚羽蝶」が「ほぼ同じ大きさ」で散らされている。

品川さんの柄行きの特徴は、このように「伝統文様」から決して離れない図案であることだ。この作品以外のモチーフも「有職模様」や「能装束」からヒントを得たものばかりである。しかし、この文様をまさに「デザイン」すること。ここに、すべてがあるといっていいと思う。「森口華弘との出会い」の中で目指した「日本的なものを独創的にデザイン」することが、見事に完成されているのではないだろうか。

そして「挿し色」も個性的である。私が特に感じるのは上の画像で言えば、二つ目の「雪輪」に使われている「緑青色」である。このように明るいパステル色とも呼べる色使いは、他ではなかなかお目にかかれない。なおこの「緑青色」は意外にも「日本の伝統色」で、6世紀当時、中国から伝えられた「孔雀石」を砕いたものを原料としていた。そして、これは、自然界で唯一「緑色」をそのまま出すことの出来るものなのである。

最後にもう一度、「花寄せ」の部分を載せたい。この作品のタイトル、「花の譜」にふさわしい柄行きである。「女性」ならではの「優しく、甘さ」のある色使いをする中にも、それぞれの柄としての主張がある。

そして何より、この振袖が「黒地」であり、生地もポッテリとした「鬼シボちりめん」を使っていることが、なお一層この「品川友禅」を引き立てているのである。

 

品川さんの作品は、近頃よく「キモノ雑誌」で取り上げられている。「和楽」や「美しいキモノ」などに、「優美でモダンな品」として紹介されている。また、女優の樋口可南子さんをはじめ、ファンの方も多い。

これは、ともあれ、品川さんの描く「独創的デザイン」が女性の「琴線」に触れるものだといえるのだろう。すっきりとした中に、少し遊び心があって、一度は手を通して見たくなる、そんな装う人を引き立てることが出来る品を、これからも出来る限り作り続けて頂きたいものである。。

終わりに、2005(平成17)年の産経新聞によるインタビュー記事から、品川恭子さんの言葉を紹介して、この稿を終わりたい。

「きものと着る人の素敵な出会いを想いつつ、作品を作り続けたい。」

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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