バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

薄物の汚れ、どこを見る? 呉服屋の視点

2013.08 06

「薄物」をお召しになる方にとって、この暑さは、大変なことである。

先日、うちの店を訪ねていただいた二人のお客様が、「粋紗」と「夏塩沢」をお召しになっていて、その時に「どんなに暑くとも、顔の表情は涼しげにしていなければ駄目ですよね」という話になった。まさにその通りで、見る人にとって、「薄物をお召しの方」は、何ともその姿がさわやかで涼感のあるものに見えるため、「やせ我慢」をしてでも、「暑そうな素振り」は出来ないのである。

薄物は、「着ている時」も大変だが、「着た後の扱い」にも頭を悩ませる。「汗」によるしみが付いていないか、汚れは大丈夫かという心配である。「冬物」と違い、薄物はどうしても「しみになりやすい」という意識があるからだ。

今日は、そんな「薄物」をお召しになった後、どこの部分に注意して「しみ」を確認すればよいかお話しよう。丁度昨日お預かりした「薄物」があるので、それを例にしながら、話を進めてみよう。

(黄土地型疋田鷺文様 型染め京紅型紗小紋 栗山吉三郎工房)

画像では、わかりにくいが「紗」の小紋である。しかも京紅型でもっとも有名な工房である「栗山工房」の品。この工房らしい、型疋田を使い、図案化された鷺がシンプルに表現され、色が手挿しされたもの。めずらしい「紗小紋」で、なかなかよい品である。

明らかに「しみ」とわかる部分(白い糸印)。これは、お客様が自分で「付けてしまった」とわかっている「しみ」である。このように「自覚されている汚れ」は探すのは容易で、確認もしやすい。

問題は「意識されていないしみ、汚れ」である。手順として、最初にお客様に指摘された汚れを見た後、我々が「確認」しなければいけない所を一つ一つ見て行くことになる。

「衿」部分。衿は半分に折ってお召しになるため、真ん中にスジが付き易い。何回も繰り返して着ているうちに、そのすじに汚れがたまり、「変色」することがある。これは「薄物」だけでなく、「冬物」も同様の注意が必要だ。また、何と言っても「衿といえば化粧汚れ」である。だいたい「衿のツボ」から両側3,4寸のところに付いてしまうことが多い。

これは、「首まわり」の「ファンデーション」が原因なことが多いが、その「付き方」には個人差がある。上の預かった品を見ると、汚れは確認できない。「衿」に関しては大変上手にお召しになられたと言える。なお衿汚れは、ご自分で「ベンジン等の薬品」を使い簡単にふき取る方もいると思う。大切なのは、その時々「小まめ」に確認して手を入れてあげることだ。

「汚れ」がひどくなると、「変色」して、「しみぬき」だけではきれいにならず、「地直し」や「色ハキ」で元に戻さなければならないケースも出てくることがあるのを覚えておいて頂きたい。

袖口の内側部分。お客様が意外と見ていない部分。実は汚れが溜まるところである。これは「薄物」より「冬の袷物」によく見られるのだが、「裏地の白い胴裏」や「袖口に使われている八掛」に汚れが付いていることが多い。

案外見落とされることが多く、気が付いた時には「変色」していることがよくある部分である。これを読まれた方はここを一度「確認」して欲しい。上の品は汚れがないと言える状態だ。

みやつ口の画像。この周辺は「汗」によるしみが付き易い所である。品物によってはここに、「シワが寄る」ような感じになってしまったものがあるが、そういう場合は「汗」を「疑う」べきであろう。「薄物」の「素材の質」にも寄るが、ある程度時間が経過すると乾いてしまい、「汗」と確認できないまま箪笥の中に片付けてしまわれるケースも多い。

とりあえず、この画像の周辺は「汗」を疑っておいた方がよさそうである。私が預かり品を送る「ぬりや」さんは、薄物や単衣物に関しては、必ず「汗の有無」を確認している。前にも話したが「霧を吹く」ことにより「汗が浮き上がる」ので、それを試すそうである。

衿の横、胸の部分。この両胸も注意を払わなければならない所。

「汗をどこにかくか」というのは人により千差万別である。「脇」「胸」「背中」「帯の下」などが「汗しみ」がつく部分である。その付き方には人により「くせ」があるという。うちのお客様で、必ず「背中」に汗をかくという方がおられる。その人の場合必ず「背」を重点的に見ておかなければならないのだ。

とにかく「汗」が「薄物」の大敵であることに間違いなく、我々は常に「汗しみ」を意識しながら、預かり品を見てゆくことになる。何といっても「時間が経過した汗しみ」は「黄変」となり、直すことが厄介なものになるからだ。

上の画像を見て頂きたい。「白い糸印」がしてある所は「しみ」が類推される箇所だ。よくご覧になっても「何もない」と思われるだろう。だが、違うのだ。ここには必ず「しみ」があるはずである。答えは下の画像。

このキモノには、絽の白絹を「居敷当て」として使っている。通常「居敷当て」はキモノの「くりこし」から下、裾まで張られている「裏地」のことである。これは、裏を付けることにより、キモノをある程度「しっかりさせる」ことや、「襦袢が透けることを抑える」という役目も果たしている。「薄物」にはこの「居敷当て」の施しをする方が多い。

上の画像、居敷当てに「しみ」があるのがわかる。だが、その上の画像、しみがついていると思われる「表地」には、ほとんど汚れがわからないのだ。つまり、キモノの「表」を見ているだけでは、「駄目」ということである。もしこれに「白い居敷当て」が付いていなかったら、この「しみ」はもっと確認し難いものだったであろう。

このしみは「裏から付いたもの」ではなく、「表から付き、裏に抜けたもの」と考えられる。そうすると「表面的にしみは見えなくとも、付いたものと類推する必要」がでてくるのだ。こういうものは「厄介なしみ」ということが言えよう。

 

我々呉服屋が「預かり物」をよく見る部分は、お客様の「しみの意識がない部分」ということになるだろう。「上前」や「裾」や「衿」はお客様自身が「しみをつけたことがわかりやすい場所」だと言える。だから、これ以外の所を丁寧に見ておくことが重要で、先ほどの例のように「裏地にしみがあるかどうか」や「袖の内側」など「目に触れにくい場所」などが、それに当てはまる所である。

最後に、「しみ」の話をしたついでであるので、よくお召しになられている「夏の薄物」の一つ、「小千谷縮」の簡単な家での手入れ方法を書いておこう。

「夏の定番」ともいえ「小千谷縮」。値段もそれほど高価でなく、手軽に「麻」の涼しさを感じられる品物である。

昔から「普段着」として使われてきたものだけに、当然「自分で洗えるモノ」であった。だが、今の方々は、なかなかそのことを躊躇されるようである。「キモノ」というだけで、「自分で手入れされること」をあきらめてしまわれる方も多いのではないだろうか。

「小千谷縮」は一言で言えば、「優しく扱う」ということである。水もしくはぬるま湯で、優しく手押し洗いする。(ゴシゴシ擦らない)。洗剤を使う場合は、漂白剤を含まない「中性洗剤」を使う。洗濯機を使用する場合は、「ネット」に入れ、「手洗い仕様」で洗う。脱水する場合は、弱く短めにお願いしたい。

乾燥は、「キモノハンガー」などに掛け、「手で整え」ながら、風通しのよいところで「日陰干し」をする。

また「シワ」になるのは、「麻」という繊維の逃れられない性質であるが、「着た時のシワ」は、「霧吹き」をかけて、すこし伸ばしてやる。「アイロン使用」は材質の「シボ」が伸び、「小千谷らしい着心地」がなくなるため、避けるべきであろう。また、「パールトン加工等の撥水加工」は、麻の特性と相容れないためこれも避けるべきだ。

このように、「麻」という自然素材を使った品物は、自分で水洗いすることできれいになり、手軽に使うことが出来る「便利」な「薄物」ということをわかって頂けたと思う。

 

「手を入れる」という仕事は、呉服屋にとってもっとも重要なものの一つだと思います。「しみを見つける」という作業は、通りいっぺんになりがちなことですが、ここで見落とすと、その品物にとって、後々まで響いてきてしまい、「長く使う」ということが難しくなるかもしれないからです。

何事も少し時間をかけ、「腰を落ち着けて」品物に相対するという姿勢が、何より大切なことだと思います。

「どの部分に汚れを意識するか」という今日のテーマが、少しでも読んでくださった方の役に立てば嬉しいですね。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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