バイク呉服屋の忙しい日々

にっぽんの色と文様

涼をイメージする 流水・波文様に千鳥

2013.06 21

夏の水辺はもっともわかりやすく涼感を表すことが出来る。水の流れは文様の中でも、変化のつけやすいものの一つである。

ある時は渦を巻き、ある時は逆波をたて荒々しく、時には穏やかな表情を見せ、と枚挙にいとまがない。また季節や気候に応じて変わり行くという「実体の不安定さ」が様々な文様の変化を呼ぶのだ。

水や波はそれとともに配される図案や道具によっても変化が付く。旬の草花や魚、鳥類、あるいは舟、水車、月など描かれるものは多様であり、それにより模様が変化する。「水」と言う文様は図案の中で主役にも脇役にもなりうる「オールラウンドプレイヤー」のような存在と言えるだろう。

 

(濃紫根色 波に千鳥模様 絽付下げ 型友禅 菱一)

上の二つの画像、写し手の技術の稚拙さで地色がまったく違って見えるが、上の方が実物に近い。濃い紫系統の色である。型糸目でそのまま波を表し、三羽の千鳥の白い羽は刺繍がほどこされている。この「波に千鳥模様」は薄物によく使われるオーソドックスなものだ。下の画像は上前(おくみと前身頃)を合わせてみたところ。薄物の地色に濃い色を使うと、下に白い襦袢を着ることにより透けて浮き上がるような印象を与え、薄い地色を使ったものとはまた違う表情が出る。

今は少なくなったが、紋紗の無地モノには濃藍色や黒など濃地のものが多く見受けられ、襦袢の白が濃い表の地色を通して透けて浮かびあがり、独特の清涼感を見る人に持たせることができる。「夏こそ濃い地」の装いを楽しむという通の方が昔は多かった。

「波」は「波頭」の描き方一つでその印象が優しくなったり荒々しくもなる。また波と波の間隔や波の数でも意匠全体が大きく変わる。上の品のように細い型糸目を使い波先も小さく描かれているため「穏やかな波」を思い浮かべることができる。

 

(雫色 流水文様 縦絽八寸名古屋帯 紫紘)

めずらしいあざやかな「雫色」である。遠目から見ても印象に残る色の中から、すこし大きな水の流れを浮かび上がらせている。「夏の清涼感」を単純で大胆な模様取りと地色によって表現している品。

「流水」はその流れの大きさや配置によっていくらでも変化するものであり、単純な色使いであればあるほど印象的なものになる。帯の文様とすれば「有無を言わさず夏を感じるもの」になっていると思う。

流水文様の中でよく知られているのは、「竜田川」とよばれる模様で、もみじの名所である竜田川に紅葉した葉が浮かぶ景色を想起したもの、また「観世流水」とよばれ能楽の家元「観世家」が用いた渦巻き模様の意匠もおなじみだ。

(波文様に千鳥 上は藍地綿紬 下は褐色地コーマ地染 いずれも竺仙ゆかた)

両方ともに「流水に千鳥」文様であるが、ご覧のように印象は違うものになっている。

上の「流水」は「観世流水」で「千鳥」も小さく「足」が付いていて何羽も群生していることで愛らしいイメージを受ける。下の「流水」は大きく大胆な流れになっていて、「千鳥」も丸々太って大きく図案化して描かれている。伝統的文様なのに少しも「古さ」を感じさせない。

「紋」の中にもある「波に千鳥」。何だか「大波」に「千鳥」が飲まれそうな感じ。

「太って丸々とした千鳥」が「千鳥」としては一般的らしい。紋帳をご覧の通り、様々な「波」紋がある。ただ、家紋としてはめずらしい紋で、私はまだこの紋入れの注文を受けたことはない。

 

「千鳥」は「冬」の季語とされていますが、「夏」の意匠として多用されています。「水」と並べて使われることにより、「水辺の涼感」を表すのにはもっともわかりやすい演出者といえるでしょう。何より「少し太め」の愛らしい姿はだれにも好まれるものだからだと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
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