バイク呉服屋の忙しい日々

職人の仕事場から

洗い張り職人 太田屋・加藤くん(2)

2013.06 02

単衣から袷に変わるこの季節は、毎年、手直しの依頼が多くなる季節である。

秋から春にかけて使われた「袷」を、しみぬきや丸洗いをしたり、洗い張りして仕立て直すなどの仕事は、割と時間に余裕のある夏の間にお受け出来るのが、私としてもありがたい。「丁寧に時間をかけて」と職人さんにお願いすることが出来るからだ。

ということで、今日は「洗い張り職人・加藤くん」の続きを書く。

「洗い場」ではまず、洗剤を入れた水桶の中に生地をつけ込むことから始める。「洗い張り」に使う洗剤は「中性洗剤」である。この洗剤は市販されていない。

生地は長い板の上にのせられ刷毛であらう作業に移る。品物によっては最初に洗剤は入れず、水洗いだけで生地を引き上げ、「中性石鹸」を板の上で生地に付けながら洗って行く方法もあるようだ。

ここからが職人さんの腕の見せ所である。というのも依頼を受ける品物の状態は「千差万別」であるからだ。「汚れのひどさ」「生地の痛み具合」などに加え、表地と裏地では使われている生地が違うことや、表地自体も「織物」もあれば「染物」もある。「染物」であれば生地は「紋綸子」も「ちりめん」も「羽二重」もあるのだ。もっと言えば、「ちりめん」の中には「大シボ」のものやシボの細かいものもあるため、それもひとくくりには出来ない。

生地の質、状態を見て「洗い方」を判断して、それにもっともふさわしいやり方を見つけてゆく。それは「経験」に裏づけられた職人でないと出来ないことなのだ。

 

そこでもっとも大切な道具は「刷毛」である。上の画像は用途によって使い分けられる二つの「刷毛」。ここの仕事場からは遠くない「大伝馬町」の「刷毛専門店・江戸屋」さんから購入している。

この刷毛の「毛」は「馬や豚」などの毛をつかい、そのどこの部分の毛を使用しているかということでも「刷毛」の用途が違ってくる。紬やお召し類など少し堅い生地と染物類の柔らかい生地では当然使うものは違う。また「表地」と八掛や胴裏、羽裏などの「裏地」でも違う。

加藤くんの話では、「生地が古いもの」や「痛んでいるもの」は「使い込んでかなり柔らかくなった刷毛」を使うという。痛んだものはとにかく「そっとやさしく、丁寧に何度もくりかえして洗ってやるそうだ。「古いものほどいとおしい」様子がわかる。

 

キモノには「汚れやすい部分」がある。それは「衿」「袖口」「裾」や「上前の身頃」などだ。私も預かり品をまず検査するのはそこで、「衿」は「化粧汚れ、いわゆるファンデーションの汚れ」であるし、「袖口」は何度も着ているうちに一番汚れが付きやすい所で、袖口裏の八掛のところに汚れがあることが多い。「裾」は「ドロはねや雨じみ」、「上前身頃」は着た時に一番前にでる部分で食べ物を落とすことが多いところである。さらに「脇」や「胸」、人によっては「背中」に「汗」による「汗じみ」が付くケースもある。

また「縫いあと」の部分の汚れがある。これは生地が古くなると「表に出ている部分」と「裏に縫いこまれている部分」で色が違ってくる点だ。洗い張り後に仕立て直す時、たいてい以前の寸法より大きくすることが多い。例えば「母から娘」へ受け継ぐ場合、特に「裄」などを以前の寸法より大きく出すことがほとんどだ。「裄」を出す場合「袖付け」に縫い込まれていた「余り生地」を使う。この「縫い込まれていた余り生地」と「長い間使われた表地」の色が違っていて均一になっていないと、仕立てをした時に、生地を出して大きくしたところが取ってつけたようになってしまうため、この「縫いあと」の汚れを丁寧に落とすことが重要になってくる。

だから「キモノの部分」によっても付く汚れが違い、部分部分を違う洗い方や違う「刷毛」を使って作業して行かなければならない。

刷毛洗いのあとは「すすぎ」の作業。バケツに水を溜めて、繰り返し何度も洗って洗剤を落としてゆく。冬はつらい作業である。洗い張りの仕事は水場仕事のため、やはり寒い時は大変だ。すすぎ終われば「脱水機」に15秒ほどかけ、次の「張る」仕事に移ってゆく。

「職人さんの仕事」をお話することは、当初考えていたよりずっと大変なことで、私の下手な文章で、きちんと、読んで下さる方に伝わっているかどうか不安でもあります。中身はきっと不十分なものだと思われますが、仕事場の雰囲気と手順を少しでも知っていただけたらありがたいのです。二回で加藤くんの仕事を書きおわるつもりでしたが、出来ませんでした。次回は「洗い張り」の「張る」仕事から「仕上げ」までを紹介して、この項を終わりたいと思います。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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