バイク呉服屋の忙しい日々

今日の仕事から

呉服屋の道具・2 尺差し

2013.06 25

「一寸の虫にも五分の魂」という諺はよく知られている。小さなものにもそれなりの根性や気持ちがあるので馬鹿にしたり侮ってはならないという意味である。

しかしメートル法で言い直せば、「3,788cmの虫にも1,89cmの魂」ということになってしまい「諺」にはならない。現代の人からみれば「五分ってどのくらいの長さ?」と思う方が大半であろう。

この諺の「一寸」が「曲尺」の単位なのか「鯨尺」の単位なのかは不明である。「曲尺」なら3、0303センチであり、「鯨尺」なら3.788センチである。

うちの店は「鯨尺」を使っているので、1寸=3.788センチということになるが、「呉服屋」ならば、この「長さの単位」ということについてどうしても話をしておかなければならない。ということで今日は「尺差し」という道具について書いていく。

(上・尺差し 中・尺、メートル兼用差し 下・尺メジャー)

近代になって「尺」という長さを測る単位が正式に決められたには1875(明治8)年のことである。その時「曲尺」と「鯨尺」という二つの尺単位が決められた。「曲尺」は主に建築や土木に使われ、1尺=33分の10メートル(つまり30.303cm)である。

一方「鯨尺」は衣類を裁つことに使われ、明治以前に「曲尺1尺2寸5分=くじら尺1尺」であり、それをメートル換算して1尺=37.88cmとした。これにより「鯨尺」の1尺は「曲尺」の1尺より7,5cmあまり長くなっている。だから大工さんが使う尺差しと呉服屋が使う尺差しでは「尺」の長さ単位の違うものになっている。

1丈=10尺=100寸=1000分=10000厘というように「10進法」で単位が分かれている。メートル換算すれば、1丈=3,788メートル。

 

「差しが扱えなければ呉服屋になれない」と駆け出しの頃よく言われたものだ。「差し」とはもちろん「鯨尺差し」のことであるが、これは「寸法取り」をすることと「裏地裁ち」をすることが「呉服屋の基本」ということを言っているのだろう。そして扱う品物は「尺単位」を基本として長さが決められていて、この単位を理解しない限り仕事にはならないのだ。

「反物」とはなぜ「反物」と呼ばれているのかご存知だろうか?「反」というのは長さを表す単位のことで、1反=3丈(11、364m)である。。着物を作るには最低でも3丈は必要で、裏地である八掛けが共布で付いているものや、袖を長く取る振袖は4丈物(15,12m)と呼ばれている。また1疋=2反という別の単位があり、男物アンサンブルなど(着物、羽織二枚使うことが出来る物)は「疋物」(22,728m)と呼ばれている。最近は日本人の体型の変化もあって、着物をつくる普通の「反物」でも3丈3尺~4尺くらいの長さになっている。

最初に「寸法」を理解するために覚えたことは、「基準になる並寸法」である。

「並寸法」とは「平均的体格」の寸法のことだ。これはかなり昔の日本人女性の体格(身長150~152cm、体重44,5kg)を基準にしたもので、とても現代女性の寸法には当てはまらない。この並寸法は、身丈(着丈)4尺、裄1尺6寸5分、前巾6寸、後巾7寸5分などである。これを覚えておくと、預かったキモノを測ればだいたいどのくらいの体格か見当が付く。身丈が4尺3寸ならおそらく身長160cmはあるだろうし、前巾が7寸以上あれば体格のよい(ふくよかな)人であろう。もちろん現実に着用する方にお会いして、寸法を測らなければいけないが、「駆け出し」の者がその「基本」を身に着けるには「体型を類推出来るようになる」ことが大切である。

「差し」でキモノのそれぞれの寸法を当たれるようにならなければ、お客様のところで「モノを預かること」も出来ないのである。もちろん細かい部所の寸法に関しては追々覚えて行くことになる。

もう一つの「差しの使い方」は「裏地裁ち」である。今は呉服屋がみずから「差しを使って裁ちをする」ような店は少なくなったと思う。裏地とは主に、胴裏や羽織・コート裏だが、最近はカットしたものを問屋から買ってそのまま仕立て職人に渡しているところがほとんどである。

当店で扱う胴裏、広幅(2尺幅)のものでこれを自分で裁つ。通常カットしてあるものの胴裏の幅は並幅(1尺幅)である。

下の画像は裁ち終わったキモノ一枚分の胴裏地。

自分で胴裏を裁つことは、着る人の寸法に合わせて裏を使うことが出来、「無駄が出ない」ということである。「袖丈」の長いものは寸法に準じてに裁ってやればよいし、身長の大、小によっても使う裏地の長さが違うことを考えながら裁ちを入れる。

画像で、裁ち終わった裏の右側は袖と身頃の分。袖は1尺4寸なので縫込み含め1尺5寸とし、それが4枚なので6尺必要である。この6尺は「並幅胴裏」の寸法で、うちで扱う「広幅胴裏」はその半分の「3尺」裁ってやればよい。胴は3尺に1寸ずつ縫込みをつけ1枚が3尺1寸、それが4枚必要なので1丈2尺4寸、「広幅胴裏」使用のためその半分の「6尺2寸」を裁ってやる。この両方を足して9尺2寸である。

左側は剣先と裏衿の分。剣先は1尺5寸で、裏襟は4尺5寸の裁ちであるが、袖や胴の裁ちと異なり、縦割り4分割、2分割を先にしておかなければならないため、この部分の裁ちは先に行ない、一度に何枚分かを取っておく。

裏地を裁つには、正確な「尺差し」使いと「裁ちばさみ」の使い方が出来ないと大変である。「はさみ」は「切る」というより「滑らして引く」という感覚だが、言葉に出して説明するのは難しい。「胴裏」の切り口がギザギザになったり、曲がったりしているものを仕立て職人に渡すことは出来ない。「この呉服屋は駄目」と言っているようなものである。

上の画像は羽織、コートに使う裏地

羽裏(はうら・羽織に使う裏地)やコート、道中着に使うものも最近はカットされているものを使うところがほとんどである。コートの丈に合わせて並尺用と長尺用の裏があるが、自分で裁ってやれば、それぞれの羽織、コート丈に合わせて使うことができる。まして「単衣」のコートの場合裏地が少なくてよいため、カットされた一枚分ではかなり残ってしまい無駄が出てしまう。

うちでは「裏地」を「反」あるいは「疋」単位で仕入れ、それをそれぞれの寸法に合わせて裁って行く。袷のコート丈2尺~2尺2寸なら裏地は1丈2尺、単衣(裏なし)なら、「肩すべり」の部分の裏は5尺もあればよいという具合である。

上は綿の反物「シンモスとさらし」

これも「裁ち」の時必要とする裏である。「シンモス」は長襦袢の衿芯として、中に入れてやる時に使うもので、並巾6尺5寸裁ち。単衣で「バチ衿」にする時はやはり衿芯として、半巾5尺5寸裁ち。羽織の衿芯としては、三ッ一巾(三分の一巾)5尺5寸。「さらし」は「ゆかた」の衿芯として、並巾1尺5寸裁ち。

今の時代、「裏裁ち」など仕立て職人に任せておけばよいのかも知れない。しかし、自分で出来ることで無駄を出さず、お客様に余計な出費をさせないというのも一つの「店としての良心」だと思う。そして、「差し」と「はさみ」を使いこなすことで、「仕立て」や「寸法」のことをよく学ぶことができる「よい機会」になる。だから「駆け出し」の者は「差し」が使えないようでは、「品物」に手を触れることも出来ないのだ。

 

最後に上の胴裏の画像やシンモス、さらしの画像をもう一度みていただきたい。広幅胴裏「絹ばら羽二重」の包装紙に74cm×46m、シンモス「八千代毛斯」には21,2メートル保証、さらし「特選晒」には長さ10メートル以上などとそれぞれの長さが表示されている。

全部「メートル法」で表示されているが、例えば胴裏の包装紙に「2尺×12丈」などと表示すると「逮捕」される。これは法令で「尺貫法」を、取引や証明で使うことが禁じられているためだ。もし違反した場合「50万以下」の罰金である。

1959(昭和34)年1月1日から、「計量法」により決められたことで、こうした罰則まで作られているのだ。私が裏地を裁ってお客様に代金をもらう時は、それぞれの裏地の「1尺」の代金を決めておき、「裁った分だけ」いただくようにしている。もしその際、胴裏や羽裏に「1尺いくら」と値札をつければ、「罰金50万」である。

例えば「羽裏」などは、それぞれ柄や加工で仕入れ値段が違うため、「1尺」の値段をつけておきたい。裏を使う長さもまちまちなので大変困ることになるが、仕方がないので仕入れ値段を覚えておき、それぞれの裏の「1尺」の値段を算出している。「脳内」で値札を付ければ違反にはならないだろう。呉服屋にとっては、この「計量法」は誠につまらない法令である。

 

呉服屋にとって「尺」とはどうしても縁が切れないもので、たまにお客様から、「袖丈」は49cmで、身幅は前が23cm、後が28cmと電話などで寸法を連絡していただくと、つい戸惑ってしまいます。現代と私とではまさに「尺度」が違うと感じている毎日ですが、なんとなく古きよき時代の日本を「頑なに守っている」ような気がします。つまりは「融通」がきかないということになるのでしょうが。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このブログに掲載されている品物は、全て、現在当店が扱っているものか、以前当店で扱ったものです。

松木 茂」プロフィール

呉服屋の仕事は時代に逆行している仕事だと思う。
利便性や効率や利潤優先を考えていたら本質を見失うことが多すぎるからだ。
手間をかけて作った品物をおすすめして、世代を越えて長く使って頂く。一点の品に20年も30年も関って、その都度手を入れて直して行く。これが基本なのだろう。
一人のお客様、一つの品物にゆっくり向き合いあわてず、丁寧に、時間をかけての「スローワーク」そんな毎日を少しずつ書いていこうと思っています。

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